- 岩西 剛(DIYクリエイター)
- いわにし・ごう|海外のインテリアマテリアルを扱う輸入会社でバイヤーを務めたのち、古材を使った製品を手掛ける「リクレイムドワークス」の立ち上げに参画。2019年よりフリーに。現在はスタジオ「Staple Room」のディレクターのほか、DIYの監修やコンサルティング業務を行うなど多岐に渡る。
- Instagram - @5iwanishi
「欲しい物は買うのではなく作る」という感覚は、幼い頃から無意識にあった。
職人だったという父親の影響から、「自分で使う道具は自分で作る」という環境が身近にあった岩西さん。物を作るという感覚は、子供の頃から無意識のうちにどこか身についていたと言います。
「留学していた頃は、物を作って自由に表現したいと思っていたのが、社会人になってからは作った物を誰かに売って使ってもらうようになり、意識が変わりました。10年ほど前からは、個人的なモノ作りから“仕事”として意識し始め、DIYを通して、多くの人にモノづくりの魅力を伝えることが職業になりました」
モノづくりの根底にあるのは、哲学的な考えから。
「ある民族が、拾った物の寄せ集めで必要な何かを作って生活していくことに着目した、レヴィ・ストロースの『野生の思考』に、ある物で何かを作る『ブリコラージュ』という考え方があるんです。でも、物を拾うにも筋の良い・悪いがあって、それ次第で出来上がる物がガラクタになるのか、それとも役立つ物に変わるのかは大きく違ってきます。その筋の良し悪しはDIYも同じ。選ぶ物、アイデアの出し方でまったく変わるので、普段の生活からいろいろな物事を見て、刺激やマインドを拾い上げておくと、いい作品が出来るのではないかと思うんです」
岩西さんは、街を歩いていて、「これは何だ? あ、あれを作るのに使えるな」と、自分のモノづくりにつながるかどうかの感覚を大事にしているそう。
現在、岩西さんがディレクターを務めるスタジオStaple Room(ステイプルルーム)は、自分の気に入った物を置いている空間。撮影スタジオとしての役割はもちろんのこと、空き時間はワークスペースや、コロナ禍以前は親しい友人を招いたパーティなども行う意見交換の場としても活用。「大きい家具が入りやすいことを条件に探していたけれどなかなかいい物件に巡りあえなくて。でも、フォークリフトが扱える場所を探したらどうだろう、と見方を変えたら、印刷工場の最上階であるここが見つかったんです」
DIYの価値を実践で知ってもらうため、ワークショップを開催。
これまでのDIY遍歴を振り返ったときに、「3段階のフェーズがあった」という岩西さん。DIY初期は今から遡ること20年ほど前のこと。
「当時、アメリカから古材を輸入し、独自のデザインに加工したさまざまなプロダクトを販売していましたが、お客様からは『どうしてこんなに価格が高いの?』と言われることが多くありました。でも古材を扱うのは手間も時間もかかるし、本当に大変な作業で……。それを手掛ける職人というのは尊い存在なんだぞ、ということを多くの人に知ってもらいたかったんです。まだDIYという言葉が一般的ではなかったんですが、一度何かを自分で作ってもらったら、商品の価値がもっとわかってもらえるのではないかと思いました」
そこで当時の岩西さんは、家具販売の傍ら、カッティングボードを作るワークショップを積極的に開催。
「カッティングボードは、木材をカットして塗料を塗るというDIYのとっかかりとしてはわかりやすいもの。とはいえ、カッティングボード製作を通して、塗料は何が適しているのか、見た目や風合いだけでなく、撥水性や耐久性など、総合的に考える大切さを伝えたいと思っていました。ただ作るというのではなく、塗料一つとっても、何と何を組み合わせればいいのかといった、適材適所の材料を選ぶDIYを意識していましたね」
写真左のウォールプランターは、合板に農具コーナーで見つけた麻シートを巻いて苔玉をセットしたもの。「コーヒー豆の入った麻袋などを使ってもいい感じになりますよね」
そのほか、板を下から順に重ね合わせて作る外壁の手法「よろい張り」から発想を得たプランターカバー。余った木材の活用を考えたときに立体感やバラつきを出したいと考え、この形が生まれたそう。
海外へ買い付けに行っていたときに、現地の紙袋や購入したポスターなどに合わせて作ったアートフレーム。「全部同じ種類の木材を使っているのに、風合いがそれぞれ違うのが面白いですよね」
こちらはスタジオの外で休憩するときに何か物を置ける場所があったら、と思い作ったという吊り棚。古材の貼り方はヘリンボーンで個性を。
モノづくりの先にある、日常シーンを想像するようになった。
次に変化が起こったと言うのが2010年頃。まだまだDIYという言葉よりも日曜大工のほうがしっくりきていた日本とは対象的に、アメリカでは新たなムーブメントが起こっていたといいます。
「日本は、日曜大工=男性が主役という位置づけでしたが、アメリカでは、『ライフスタイルをDIYする』という流れが起き、女性がDIYを生活に落とし込んでいたんです。そのうち日本もこうなるんじゃないかなと思いましたね」
その頃の岩西さんが手掛けたという作品がこちらのベンチ。サイドはよろい張りで古材を重ね、座面下は収納ができるように工夫されています。「グレーは自分の好きな色のひとつで、古材との相性もいい気がします。このベンチは2つを横に並べたり、背中合わせにしたり、レイアウトによって見え方が変わって楽しめるというのも特徴です」
自作のフックにもその面影が見られ、アクセントカラーにホワイトをチョイス。「あまり色を使うことはなかったんですが、この頃からポップなカラーやパステル調の明るいカラーを意識的に取り入れたりするようになりました」
同じ古材でも使われていた場所や年代によってもさまざまな経年変化があるため、組み合わせ次第で表情も変わるそう。「色を付けたフレームのほか、植物もインテリアに欠かせないもの。女性が使いやすいという目線や女性ウケも意識していましたね」
モノに新しい使い方や付加価値を付ける面白さに気がついた。
DIYのアドバイザーをする傍ら、フリーで活動するようになった頃から「本来の目的ではない使い方をすることや、捨てるかもしれない物を利用することに楽しさを見つけた」という岩西さん。
「材料が動かないように固定するクランプという工具をコーヒードリッパーにしてみたり。何か使い方、活用方法があるはずだと思って、その物をディグる(掘り下げる)のが今の僕のDIYですね」
こちらは1930年代に生まれたという葉巻の箱で作られた、シガーボックスギター。家にある木箱とDIYなどで余った角材、それに弦があれば簡単に作れるという。本来はゴミとして捨てられるかもしれなかった物でも、工夫次第で別の何かに生まれ変わることができるDIYの見本のような作品。
「DIYはエコというイメージがありますが、作ったところで耐久性がない、使いにくいという負の生産はしたくない。安く作ったのはいいけれど、結局ゴミになるというのはサスティナブルではないですよね」
DIYで作った思い入れのある作品たちは、大事に長く使い続けたいもの。「例えばカッティングボードでも、手入れしながら経年変化を楽しんでもらいたい」と岩西さん。
「オイル塗装に使うのは無香料のベビーオイルがおすすめ。食材をカットするために使う物ですから、口に入れても安全な物がいいですよね。乾燥を防ぎ、絶妙な風合いも出せます」
使う素材とサイズ感に注目するとインテリアの見方も変わる。
スタジオにあるプロダクトに使われているのは、いずれもアメリカの西海岸にしか生息しない材種、米松(ダグラスファー)の古材。その理由を聞くと、こんな答えが返ってきました。
「古材は昔の建物を解体したものですが、どれもヒストリーが後ろにあるんです。どこで使われていたのか、どんな用途で使われていたのか、といったね。また、植林された木材よりも目が詰まっているので、強度も高いという特徴があります。アメリカは国土が広いので伐採した木材はそのエリアの近くで使う、いわば地産地消のようなスタイルが確立されているんです。だから、西海岸の雰囲気をインテリアに出したい、と思ったらデザインよりもその土地の材料を使うことが一番の近道かもしれないですね」
DIYで作るアイテムを◯◯風にしたいと思ったら、「目の違和感がポイント」と岩西さんは続けます。
「例えば、ブルックリンスタイルといっておきながら、その素材が東南アジアの木材であるチーク材だとなんだかしっくりこないんですよ。同じように、サイズ感というのも大事で、このスタジオにある物は、いずれもインチで作っています。センチは日本人ならば目でなんとなく追うことができるんですけどインチは慣れていない。そこに日本の物じゃないっていう違和感が出る、それが海外の雰囲気につながっていくんですよね」
最後に、岩西さんがDIYで大事にしていることを聞いてみました。
「簡単に買えたり手に入ったりする身近な物を使い、大げさな工具は使わないこと。そしてコストバランスを大事に、家の中で少ない材料で作れることです。また、ゼロから10まで自分で作ることがDIYではなく、できるだけホームセンターのカットサービスなどを活用することが、楽しくDIYを続けるコツではないでしょうか。これからも小難しくなく、シンプルで意外性のあるDIYのアイデアを多くの人に届けたいと思います」
モノづくりへの並々ならぬ愛情を垣間見ることができた岩西さんのDIY遍歴。「ない物は自分で作る」ことで、好みの空間に丸ごとできる、そんなDIYの基本を改めて教えてもらったような気がします。
- Photo/Taizo Shukuri
- Text/Misuzu Yoshida
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