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古民家をセルフリノべ。未完成を楽しむ住処。
CULTURE 2023.12.11

古民家をセルフリノべ。未完成を楽しむ住処。

いつかは、と憧れる人も多いだろう、郊外でのスローライフ。2年前に東京から神奈川県横須賀市に移住した柿崎 豪さん・高山紗季さんは、プロ顔負けのセルフリノベーションで古民家での理想の暮らしを構築中だ。未完成であることを日々楽しむ、そんな彼らの生活にお邪魔した。

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柿崎 豪さん(フォトグラファー)/高山 紗季さん(美容師)
柿崎 豪さん(フォトグラファー)/高山 紗季さん(美容師)
かきざき・ごう/たかやま・さき | 都内を中心に活動する柿崎さんと、神奈川・真鶴にある「本と美容室 真鶴店」(@manazuru_book.hair)で美容師をする高山さん。賃貸の古民家を2人の拠点として生活している。

古民家暮らしで見えてきた、“自分で手を加える”ことのよさ。

心地いい風が吹き抜ける高台の古民家。ここで2人暮らしをする柿崎さん・高山さんに移住の経緯を尋ねると、「もともと古いお家が好きだった」という。

「東京で暮らしているときも、わざと古い家に住んでいました。自分でアレンジするのが楽しくて。2人で家を借りようというタイミングで、もっと自由が利いて暮らしを一から作っていけるような家がいいという話をしたんです。探していく中で一番最初に目に留まったのがこの家でした」

築年数は不明。登記簿に載っていないほど古く、推定1950年以前の建物だそう。賃貸ながら現状復帰も不要で自由に改装できる、という点が大きな決め手になった。

「僕はもともとコンクリートや現代的なモダン建築のほうが好みで(笑)。でも古民家を活用したリノベーションには興味があって、1回自分でやってみるのもいいかなって。とはいえ、どこまで自分たちで改装できるか自信がなかったので、この条件は都合がよかったんです」と柿崎さん。

壁や天井のリノベーションは、業者に頼らずほぼ自分たちで。手をつけていないのは床のみというから驚きだ。天井はあえて骨組みや筵を残し、古い家の風合いをそのまま活かしている。

リビングにある丸テーブル、棚、ソファーなども、DIYによるもの。フレームは家を崩したときに出た端材で作ったという。完全なセルフメイドだからこそ、サイズ感や見た目など、家との相性も抜群。家にテレビはなく、高山さんは休日にここで本を読んで過ごすのが定番だそう。

りんご箱で作った本棚、端材と既製品を組み合わせて改造したレコードプレーヤーなど、部屋の至るところが2人の“手仕事”により丁寧に色付けされている。 

“好き”を持ち寄った、2人が落ち着ける寝室。

三角形の天窓から光が差し込む寝室は、リビングとはひと味違う落ち着いた雰囲気。天窓はもちろん、一部が斜めになった天井やベッドサイドの小窓などもすべてセルフリノベーション。「部屋に光が差すように、中空ボードをはめ込み天窓を作りました。床や壁はラワン材を張って塗装。木造モダニズム建築をイメージしています」と柿崎さん。

ベッドサイドには、音楽が好きな高山さんがセレクトしたカセットが並ぶ。寝室ながら趣味の空間としても使われていることがうかがえる。

タイルを敷いて区切ったランドリースペースはモダンな照明やチェアが馴染む空間となっており、柿崎さんが敬愛する建築家からインスピレーションを受けたもの。お互いの好きなものが無理なく古民家という箱に溶け込んでいる。

すべての空間がひとつなぎになっていて、どの部屋にも行き来しやすいのが平屋の利点だ。

心安らぐ時間が生まれる、手作りのキッチン。

キッチンが中心となったこの家の間取りは、リビングや寝室からも水回りが近くて暮らしやすいと2人は口をそろえる。

この家に住むまでは都内で暮らしていたが、郊外にある古民家で生活を始めて、変わったこととは?
「暇さえあれば改装しかしていないのですが(笑)、料理をちゃんとするようになりました。食材ひとつとっても、生産者の手から直接買っているからよりおいしく感じるのかもしれません」と、柿崎さん。

「知人の畑仕事をお手伝いしたことをきっかけに、家庭菜園にも挑戦するように。最初は知らないことばかりでしたが、そこで得た知識を生かして夏の間は野菜を育てていました。休日はDIYや料理をしたり、友達を招いて染め物を楽しんだり、家で過ごすことも多くなりましたね」

自宅の中心にあるキッチンは、2人のお気に入りの場所。スペースの拡張からシンクの取り替え、飾り棚の設置など、少しずつ手を加えて理想の空間を作り上げた。フライパンや鍋をしまうことができる収納スペースや、高山さんの手が届く高さの収納棚など、細やかな配慮が行き届いた造作も実際に住む人が手を加えたからこそ。

「家に友達が来たときも、カウンターで話しながらコーヒーを淹れたり、料理をしたり、動線的にも使いやすいです」と高山さん。開放感あふれるカウンターは、2人並んで作業をするのに十分なスペース。大人数を招いたときのおもてなしだってなんのその。

この距離感がいい。真鶴と横須賀の二拠点生活。

美容師の高山さんのもうひとつの拠点、「本と美容室 真鶴店」が真鶴町にある。同じ神奈川県内とはいえ電車で片道2時間。だが、通勤時間は苦にならないという。
「遠いと感じるときもあるけれど、通勤中にやれることもあるし、ひとりで過ごす時間もまた大切。今は真鶴と横須賀どちらの街とも、ちょうどいい距離感を保つことができているのかなと思います。

お店は自宅と同じく、リノベーションされた古い平屋。広い庭では不定期で青空美容室やマルシェを開催し、地域の人やお客さん同士の交流の場にもなっている。髪を切るだけでなく、人に会いに行くという楽しみがあるのも魅力だ。
「もともと真鶴はすごく好きな街で。都内で美容師をやっていた頃は、もっと自分らしくお客さんひとりひとりと寄り添いたいなと思っていたので、海や緑が見える場所で、自分も癒されながら仕事ができているのはすごく幸せです」と高山さん。

理想の暮らしに一歩ずつ。まだまだ続く2人の家作り。

横須賀の古民家に住み始めて2年と少し。柿崎さんに家の完成度を尋ねると「60%ですかね」と返ってきた。リビングの床の修繕や断熱性の向上など、手を加えたい場所は尽きないという。現在も、庭の空きスペースに2人の趣味であるサウナ室を製作中だ。

「不便なことはたくさんあるけれど、その中でどう暮らすのかを考えるのが楽しい。また、昔の家の作りやその背景にある手仕事を感じながら、また息を吹き込んで生活できる暮らしが気に入っています」と高山さん。
作る余白があるということは、作る楽しみがこれからも広がっていくということ。時間がかかっても一歩ずつ自分たちで積み上げていくことで、暮らしは心地よく、家は愛着あるものに変わっていく。

  • Photo/Hisanori Suzuki
  • Text/Kaede Okuzumi
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