陶芸工房のあるマイホームで楽しむ、うつわづくりと、家族の暮らし。
陶芸家・タカハラユカさんの自宅は、建築家の夫・誠さんが自ら設計・施行した。3階建ての住まいには、広々としたLDK空間、ウッドデッキ、さらにはうつわの工房まで併設されている。2人の子どもたちと暮らす穏やかな夫婦の、こだわりが詰まったライフスタイルを覗いた。
- タカハラユカさん(陶芸家)/髙原誠さん(建築会社代表)
- たかはら・ゆか/まこと|妻のユカさんは、自宅の工房で陶芸教室も開催する。夫の誠さんは、設計から施工までをトータルで行う建築会社の代表。現在2人の娘と一緒に、4人で暮らしている。
- Instagram - @n.a.yuka
子育てとうつわづくり。2つを両立するマイホームに。
髙原さん夫婦が暮らすのは、大阪府堺市。静かな住宅街に自宅が完成したのは、2021年8月のこと。設計と施工を手がけたのは建築会社を経営する夫・誠さん。
「以前は市内の賃貸マンションに住んでいましたが、2人の子どもたちの成長とともに、どんどん手狭になっていって。家が欲しいという思いはずっと持っていましたが、仕事が忙しく、後回しにしていたんです。そんな中、コロナ禍で私の仕事が一旦落ち着いたこともあって、ようやく着手することにしました」
理想と遊び心を詰め込んだという、念願の家。家族4人が集うLDKや子ども部屋、水回りなどの生活空間は、すべて2階に集約。リビングの大開口は約20畳のウッドデッキにつながり、開放感と明るい陽光を、毎日楽しむことができる。
さらに1階には、陶芸家であるユカさんのための工房を併設。
「工房が欲しいなと、冗談っぽく夫に伝えてみたら、『できるよ』って(笑)。自分専用の工房があるなんて、今でも夢のようです」と、ユカさんは嬉しそうに語った。
うつわづくりが、ぐっと身近に。陶芸家である妻のための専用工房。
ユカさんが陶芸を始めたのは、20代半ばの頃。オーストラリアでのワーキングホリデーがきっかけ。
「海外で生活してみて、何か日本らしいことに挑戦しようという気持ちが芽生えたんだと思います。帰国した後、実家の近くに陶芸教室があったので、すぐに体験しに行きました。それ以来、ずっと続けています」
ユカさん専用の工房は、約13畳のスペース。作品を並べるための棚や、温冷の水道はもちろん、焼き窯も備えた本格派だ。
「これまでは車で工房に通って、作品づくりをしていました。うつわは完成するまでに1ヵ月くらいかかります。工程によっては、17時間以上も窯に入れたままにすることもあるので、様子が気になってしまって。今は家事の合間にいつでも工房に行けますし、陶芸と暮らしの距離が、すごく近くなりました」
また友人の「私もやってみたい!」という声から始まり、工房では週に3〜4回、陶芸教室を開催している。今では100人もの生徒が通い、新規の受付を停止するほどの人気なのだそう。
「妻が陶芸をやっているのはずっと知っていましたが、作っている姿を見ることは、これまでほとんどありませんでした。教室の日には、生徒さんとの楽しそうな声が工房から聞こえてきて、僕も嬉しくなりますね」と、誠さんも笑顔を見せる。
オリジナルのうつわと家具。モノづくりの共通項。
ユカさんがつくるうつわのコンセプトは、「温かくて、ほっこり」。もちろん、毎日の食卓を彩るのも、そのうつわたち。キッチンにはたくさんの皿やカップが収められ、それらを収納するのは、誠さんがオリジナルで制作した造作の食器棚。
「自分のうつわが並んだ食卓を家族で囲めたら、すごく幸せだなって、ずっと思い描いていました。作品のアイデアはたくさんあるので、『たくさん収納できる食器棚がほしい』と夫に相談したら造作してくれたんです。ほとんどお任せでしたけど、取っ手は私も一緒に選びました」
また、キッチンの中でもひときわ存在感を放つカウンターは、ユカさんも絶賛する、大のお気に入り。誠さんの設計に、仲良しの大工さんが熱意と工夫で応えて完成した。
その他、玄関の靴箱や洋服収納など、視界に入るほぼすべての家具が、オリジナルで作られたもの。椅子のレザーも、夫婦で一緒に縫っていったのだそうだ。
「やっぱり自分で手を加えたものは、愛着が湧くし、大切にできますから」と誠さん。うつわと建築、手掛けるものは違うが、モノづくりへの想いは通じるところが多い。
家族が集う場所だから。明るいリビングと広いウッドデッキ。
木々の質感と、手塗りの漆喰の壁との調和が美しいリビングには、ユカさんの趣味だというグリーンが彩りを添えている。
「以前の家の広さでは、2〜3鉢置くのが精一杯。これまで我慢してきた気持ちが溢れてしまいました。天井のうんていは健康のためにと用意してくれたけれど、グリーンをかけるのにぴったりなので、使わせてもらっています(笑)」
当初の計画では、庭付きの平屋を予定していた。しかし、駐車場の確保が難しく、階数を増やすプランに。結果、1階にスペースが生まれ、ユカさんの工房を設けたり、建築資材を置く倉庫をつくることができた。
そして、庭の代わりになるようにとあえて2階に設計したのが、広々としたウッドデッキだ。
遊び心が散りばめられた設計・施工のこだわりは「とにかく明るい家にすること」だと、誠さんは振り返る。
「僕たちは、これからこの家で歳を重ねていきます。そのときに、いつでも空が見えるような空間をつくりたかったんです」
一歩ウッドデッキに出れば、いつでも空を独り占めすることができる。さらにリビングの天井高も約3.5mと高めに設計されており、存分に日の光が入り込む。
そして、誠さんがこだわった「明るさ」は光だけではない。
「子どもたちの個室は、リビングの奥につくりました。フロアを分けてしまうと、どうしても顔を合わせる機会が減ってしまうので。いつかは巣立っていくと思いますが、それまではできるだけ家族のコミュニケーションを大切にしていきたいなと」
家族の暮らしも、うつわづくりも。“思い通りにならない”を楽しむ。
家族の想いが詰められた家には、まだまだ余白がたくさん。ウッドデッキもアレンジを加えて、もっと活用していきたいそうだ。つくりたい家具やうつわも、夫婦で協力しながら、どんどん理想をかたちにしていくことだろう。
また取材の最後に、ユカさんはうつわづくりの楽しさとこれからの夢を、こんな風に語ってくれた。
「うつわづくりは土の塊から始まり、どんな形にもできるんです。でも焼き上がりを完全にコントロールすることはできないから、思い通りにならないこともある。それすらも楽しくて。だからいつまでも終わりがないし、飽きることがありません。これからおばあちゃんになっても、この家で、のんびり楽しくうつわづくりを続けていきたいです」
晴れた日には、ウッドデッキでお茶をしたり。キッチンカウンターで並び、手料理を新作のうつわに盛り付けたり。遊び心にあふれた家族の空間には、これからも明るく穏やかな笑い声が響いていくだろう。
- Photo/Chie Kushibiki
- Text/Keitaro Oguro
暮らしの余白として、まだまだ未知なる可能性を秘めているユカさん宅のウッドデッキ。たくさんのグリーンを置いて植物園さながらにするも、友人や家族のBBQ会場にするも自由だ。
LIFE LABELとHAPPY OUTSIDE BEAMSがつくった家「Sunny Track House」も同じく、2階リビングから繋がる広々としたアウトサイドリビングが特徴。家の中でありながら外の心地を味わえる空間を、自由気ままに彩ることができる。
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