ジェリー鵜飼が実現した、東京でありながら自然と隣り合わせの住まい。
東京は、世界に誇る大都市ではあるけれど、そんな街にだって自然はある。イラストレーター・ジェリー鵜飼さんが住む東京の家は、テラスには木々がせり出し、玄関先には植物が生い茂り、動植物の営みがすぐ間近に感じることができる場所。一方で、最新の設備はないし、便利とは程遠い。ジェリーさんの暮らしを通して見えてきたのは、利便性に勝る魅力と、自然とクリエイティブのゆるやかな相関関係。
- ジェリー鵜飼さん(イラストレーター)
- じぇりー・うかい|大企業からガレージブランドまで、数々の広告やクリエイティブを手がける人気イラストレーター。ユニット「ULTRA HEAVY」の一員としても、アート活動に取り組んでいる。最近は八ヶ岳に家を購入し、2拠点生活を満喫中。
- Instagram - @jerry_ukai
東京23区にある、木々に囲まれた家。
都心からほど近い場所にあるジェリー鵜飼さんの家。ツリーハウスのような作りで、駐車場から続く階段を登った先に居住空間がある。そこからは自然が一望でき、東京にいるとは思えない景色が広がっている。
ここに移り住んだのは7年前。内見で訪れた瞬間、即入居することを決めたという。
「その頃に住んでいた家がコンクリートの固い感じの家で。娘もちょうど生まれたタイミングだったから、危ないから引っ越そうかって。そこでネットを見てたらこの家の写真が出てきて、速攻で電話して、見に来て、入った瞬間に『決めます』って」
マンションは便利だし、新築の家が快適ということはジェリーさんも知っている。一方で、この家は築年数も古く、冬は隙間風がとにかく冷たい。不便ではあるけど、それ以上の魅力がこの家にはあった。
「昔からなんだけど、外観も含めて個性的なのが好きなんだよね。だけど見た目がよければ、あとはなんでもいいっていうわけでもなくて、ここの場合はやっぱり木がね。植物がすごいでしょ? 一番気にしたのはそこかな。森の中にいるみたいじゃん」
ジェリーさんが言うように、この家はまさに森の中。テラスに行けば大木の枝葉に触れられるし、階段の両側は草木が生い茂る。ネズミやたぬき、ハクビシンなんかが家の周りを徘徊しているのも珍しくない。アオダイショウが這っていたこともある。
「あとね、玄関脇にシジュウカラ(おもに北日本に生息するスズメの仲間)が巣を作ったんだよね。覗くと見えて、ちっちゃい子がだんだん育ってくるのがかわいいわけ。で、ある日、ガーデニングをしてたら巣穴から出て来て、飛ぶ練習を屋根の上でしててさ。そしたらカラスがわーっと飛んできて、全部食べられちゃったんだよ、目の前で」
その光景に衝撃を受けたものの、それが自然の摂理であり、野生の営み。どこか田舎の山奥のエピソードに聞こえるけれど、ここは、れっきとした東京23区。
遊びで忙しくて、仕事をしている暇がない。
親交のある企業のクリエイティブをはじめ、アウトドアブランドとのコラボレーションをしたり、最近は個展『BGM』も開催したりと、仕事にも余念がない。仕事場はリビングと、母屋の裏にある納屋のなか。筆をとるときはリビングで、スプレーを使うときは納屋へ行く。
「ただ、俺ね、ほとんど仕事しないの(笑)。締め切りがやばいっつって、ピュッとやるくらいで」
そう謙遜するものの、人気イラストレーターへの仕事の依頼は、全国からやってくる。ゾーンに入らなければ描けないこともあり、そうしたときは3年前に購入したという八ヶ岳の別荘へ行くこともある。そこは電波が入らず、テレビもない。
八ヶ岳の別荘は、東京よりも物理的に山が近い。だから仕事の合間や思い立ったときに、散歩に近い感覚で、山の中腹まで歩きに行く。東京にいるときも、時間があれば庭の手入れをしたり、緑の多い近所の川沿いを走ったりする。
「やっぱり、なんとなく自然が近くにあったほうが仕事は捗るよね。創作意欲も湧くっていうかさ。ただ、最近は本当に遊びに忙しくて、仕事をする暇がないんだよ」
たぶん、一般的な感覚であれば「仕事が忙しいから遊べない」になる。ジェリーさんは「遊びが忙しいから仕事ができない」。
「昔は『やべえ、働かなきゃ』っていう感じだったけど、今は『やべえ、もっと遊ばなきゃ』になってる。仕事してる時間なんかねえじゃんって。うち、クルマとかすっげえボロくて30万くらいだったわけ。でも、もし1000万のクルマを買ってたら、その970万円分、働かなきゃいけないわけじゃん。お金持ちは別だけど、その感覚の人が多くて、みんな無理して自分の人生を辛くしちゃってるっていうか、それを普通だと思っちゃうっていうか。俺は無理して買ったクルマのために頑張って働くより、普通のものでいいから、その分、遊ぶ時間を増やしたほうが人生はいいのにって思ってる」
それは何もクルマだけでなく、すべてに対して言えること。テレビやラジオなんかのメディアでは教えてくれない人生の物差しがジェリーさんにはある。
ちなみに、ジェリーさんが言う遊びは、場所が提供されている遊びではない。ジェリーさんがもっともハマっているフライフィッシングだと、川に到着し、地図とにらめっこをして、自分で釣り場所を開拓していく必要がある。そうして自然に挑戦していくことが、ジェリーさん流の遊び方。
その中で育まれる感覚と感性。
裏庭まで行けば、屋上へも簡単にアクセスできる。ジェリーさんの隣にいるのは、愛娘の六花ちゃん。
「子育てもそれぞれの家庭で違うけど、六花には、自然に触れさせたかったのはあるね。だから、この家も自然がすぐそこにあるから、外で遊んでいることも多いよ。八ヶ岳の家も大好きだしね」
六花ちゃんとは1歳から一緒に登山へ行っていて、昨年はテント泊デビューも果たした。東京の家でも、たまにベランダにテントを張りアウトドアを楽しんでいるという。東京にいながらも自然のなかで育った六花ちゃんは、動植物が大好きで、虫にも臆さず、とにかくエネルギッシュ。
将来の人格は幼少期に育まれるとよく言われているけれど、今の生活は、六花ちゃんの心身に加えて、感覚や感性も、豊かに育んでくれているに違いない。
また、この家は季節の移ろいも感じやすい。3月末から4月頭は新緑の季節で、最盛期は青々し、秋には紅葉を楽しめて、冬は葉っぱが落ちて日が入りやすくなる。取材時はちょうど、葉っぱが生い茂ってきた季節。これからの夏に向けて、緑はもっと深くなっていく。
住まいは心と体に作用する。
コンクリートに囲まれた都心のなかで、日々忙しくしていると、どうしても忘れてしまう自然の大切さ。けれど今回、ジェリーさんの家と暮らしぶり、その穏やかな佇まいに触れてみて、改めて自然の大切さに気づかされた。
住む場所と自然が人に与える影響は、きっと、思っている以上に大きい。
- Photo/Masayuki Nakaya
- Text/Keisuke Kimura
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