どっちにも振り切らない、アトリエと居住空間がハーフ&ハーフな家。
日常を特別にしてくれるアウトドアリビングを採用したり、自宅の一角にサウナをビルドインしたり、壁に防音材を敷き詰めて部屋を丸ごとライブスタジオしたりと、大きく様変わりしている家の在り方。そこでLIFE LABELでは「◯◯◯ in da house」と題し、自宅に”好き”を体現する人たちの“趣味(仕事)部屋”を取材。アーティストとして忙しい毎日を送りながらも、「オフの時間も大事」とワークライフバランスを整えた櫻井マリアさんの自宅兼アトリエにお邪魔する。
- 櫻井 万里明さん(アーティスト)
- さくらい・まりあ|1996年生まれ。多摩美術大学を卒業後、東京を拠点に2020年からアーティストとしての活動をスタート。作品制作を中心にアパレルブランドとのコラボや個展、壁画制作など活動は多岐にわたる。クリエイティブアソシエーション<CEKAI>に所属。
- Instagram - @eazy_happy_step
幼少時代から好きで続けている“絵を描くこと”を仕事に。
1年半ほど前だろうか。ファミリーマートで買い物をしていると、レジ上のデジタルサイネージに映し出されたポップなキャラクターたちに目を奪われ、覚束ない手元でお釣りを受け取った記憶がある。ギザギザとしたアウトラインが印象的で、色使いも独特。いったい、誰の作品なんだろう。調べると、“注目の若手アーティスト、櫻井 万里明”の作品であることがわかった。
「今年から来年にかけて、できるだけ多くの場所で個展をやりたくて」
そんな彼女は、自宅にあるアトリエで制作活動に励んでいた。主なアートワークスには<WEGO><BEAMS><NIKE>など、錚々たるブランドが名を連ねるが、「まだ、仕事としては始めたばっかりなので。今後のアートワークに生かすためにも可能な限り個展に在廊して、どんな年齢層の方が来てくださるのか、この目で見て把握しておきたいんです」とこれまでの実績におごることなく、直向きに自身の活動に打ち込んでいた。
「小さい頃から暇さえあれば絵を描いていたんですけど、好きで絵を描くようになったのは小学3年生の頃。当時、友達のお母さんに海外のフルーツとかについている企業キャラクターに詳しい人がいて。それを教えてもらっているうちに自分もいつかキャラクターとかを作ってみたいなって」
好きなことを仕事に。デビュー3年目にして取り巻く環境は大きく変わってきているが、それでもなお「絵を描いているときが、ダントツで楽しい」と、幼少時代から好きで続けている“絵を描くこと”を、心から純粋に楽しんでいる。
“絵を描く”脳のときは、オレンジのアイテムを選びがち。
玄関を上がったひとつ目の部屋をアトリエに改造。もともと畳だったフロアにはクッションシートを敷き詰め、インク汚れを防止。出窓は、自身で調合したアクリルの絵の具置き場になっていた。デスクに取り付けたミニ扇風機は、作業中のインクの乾きを早くするための一工夫。
アトリエの壁一面には、制作活動の参考にしている資料がずらりと並ぶ。アート書のほか、フィギュアやロックバンド<Devo(ディーヴォ)>のDVDなども飾られていた。
「これは、大学2年生の頃にオークションで手に入れた『チラシタイトル集』です。昔って、チラシを作るときにこういう活字を切り取って、貼って作ってたんですよ。なので、ページをめくると“オホーツク解禁”とか“精肉特販サービスデー”とか、いろんなタイトルがあって。私、フルーツのキャラクターが好きなところからこの世界に入ってるから、こういうのがたまらなく好きなんですよね(笑)」
そんな櫻井さんの偏愛は、日々の道具選びにも表れる。アトリエを見た瞬間にも感じたが、彼女の身の回りにはオレンジのアイテムが目立つ。この日穿いていた作業用のスウェットパンツもまさにオレンジだった。
「絵を描くときは気持ちが高ぶっているから、オレンジを選ぶことが多くなって。逆にデスクワークで使う事務用品とかは、インテリジェンスな気持ちになりたいから黒とかグレーを。自分でも、ちょっと気持ち悪いこだわりだなって思います(笑)」
仕事とプライベートを均等に。両者“平等”な間取り。
もの選びに強いこだわりを持つ櫻井さんだが、家選びではどうだったのか。
「アトリエのドアを取っ払っているんですけど、実はこれには意味があって。アトリエの向かいにあるトイレに座っていると、絵を遠目で見ることができるんです。一息ついたときに自分の作品を客観視できるというか。そういうことも内見中に想像しながらいろんな物件を見てまわったので、不動産の人はかなり困ったかと……」
なかでも譲れなかった条件は、シンプルな間取り。2DKの一部屋をアトリエにしているが、特にそのアトリエと居住空間の広さが一緒であること、というのを大前提に考えたそう。
「もしアトリエの空間だけ広かったら、プライベートと仕事のバランスが崩れそうだなって思って。というのも、学生の頃に六畳一間で“寝て描いて”というごちゃごちゃの生活をしてたので。プライベートの時間も、やっぱり大切じゃないですか」
毎日が、宝探し?日常に溢れるエンタメ。
「自由な時間があったら、家でお気に入りの映画を観たり本を読んだりと、1人で過ごすことが多いですね。『パーティ好きそう』『クラブにめっちゃ行きそう』ってよく言われるんですけど、私のオフは“超”がつくほど地味。1人でサウナに行ったり、ジムに行ったり。パーティとかは、どちらかというと苦手な部類です(笑)」
丸一日オフで遊びに出かけるというのは最近ないようだが、時間が許せば、あえてバス移動するようにしているという櫻井さん。
「自分の感覚みたいなものを探れる気がして、バスに乗って街の景色をキョロキョロするのが好きなんですよ。以前仕事でイギリスに行った際も、移動はずっとロンドンバス。このピンク色のブタのグッズは、ロンドンバスに乗って街中を散策するなか、妙に気になって。ベーシックな豚をなぞっているのに、めちゃくちゃ個性が出てる。それに、超いいやつそうだし(笑)。それを機にブタに目覚め、自分でもブタの貯金箱を作ったりもしましたね」
「何かを創造している瞬間が、一番自分らしくいられるんですけど、そうやってあえてバスに乗ってのんびり移動してみたり、本屋さんに行ったり、DVDを借りにレンタルショップに行ったり、そういう時間も好きなんです」
サブスクが充実するこの時代において、端から見ると「アナログで、面倒そう」 と思われるかもしれないが、彼女はその手間すら「なんだか宝探しみたいで」 と楽しみと捉える。「部活のモットーみたいですけど、私が大切にしている言 葉に“今日が一番若い”というのがあって。ラクせず、今できることを全力に やる。仕事もプライベートも、それが一番心地良いんですよ」
- Photo/Ryosuke Yuasa
- Text/Chihiro Ito(GGGC)
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