家にスケートランプを。好きなカルチャーが詰まったアトリエ兼遊び場
日常を特別にしてくれるアウトドアリビングを採用したり、自宅の一角にサウナをビルドインしたり、壁に防音材を敷き詰めて部屋を丸ごとライブスタジオしたりと、大きく様変わりしている家の在り方。そこでLIFE LABELでは「◯◯◯ in da house」と題し、自宅に“好き”を体現する人たちの“趣味(仕事)部屋”を取材。アーティストとしても活動するプロサーファー・原田空雅さんのライフスタイルは、波乗り同様、絵を描くのも心の向くまま。それを可能にする、“遊び場”を見せてもらった。
- 原田 空雅(プロサーファー/アーティスト)
- はらだ・くうが|2000年、静岡県生まれ。サーフィン×スケートボードを高次元で融合させたオリジナルなスタイルで注目を集めるプロサーファー。日本屈指のエアリストでチューブライディングのスキルも高い。また、アーティストとしても顔を持ち、自宅のアトリエで日々制作活動に励む。
- Instagram - @cooga_supacat
物心ついた頃から“落書き”ばっかりしていました。
「小さい頃からここで当たり前に遊んでいるので、何歳の頃から今のような空間に?と聞かれたら、正直わからず……」
そう静かに話し始めた原田空雅さん。実家下にあるガレージの中には大小異なるスケートランプが連結され、たくさんのアート作品が所狭しと並ぶ。いつからあるのか。彼の両親に話を伺ったところ、このガレージに初めて手が加えられたのは、空雅さんが小学3年生になる頃。“子どもの遊び場に”と、最初は奥に見える小さなスケートランプ作りから改造が始まったそう。
「父親の知り合いが、このランプを作ってくれて。僕には2個上の兄ちゃんがいるんですけど、昔は兄弟揃ってここでスケボーをして遊んでいましたね。でも絵を描くようになってからは、ガレージ内が作品で溢れかえっちゃって。次第にアトリエとして使うことが多くなりました」
幼少時代から、落書きをすることが好きだったという空雅さん。あるときは兄と二人で小石を握り、母親のクルマに落書きをしたこともあったという。ガレージの内壁からスケートランプに至るまで、随所に落書きが施されているが、そんな遊びの延長から、本格的にアートの世界に飛び込む転機となったのは、13歳のとき。“ある人”との出会いがきっかけだった。
「地元のスケートパークで遊んでいたら、たまたまカリフォルニアに住んでいる人と居合わせて。なぜか自分のことをすごく気に入ってくれたんですよ。今はもうないんですけど、じつはその人、当時カリフォルニアでスケートブランドをやっていて。『お前いいじゃん。泊まるところを用意するから、こっちに来なよ』って、カリフォルニアに誘ってくれたんです」
米国カリフォルニアで受けた、本場のカルチャーに魅せられて。
ひょんな出会いをきっかけに、13歳の頃から毎年のようにカリフォルニアに行くようになった空雅さん。サーフスケーターである父親の影響もあり、小学1年生からサーフィンにも力を入れていた彼にとって、そのカリフォルニア行きはサーフ修行も兼ねていた。しかし、初めての海外生活でまさかの事態に見舞われる。
「向こうでスケートボードの撮影をしていたら、派手に転けちゃって。両腕を折ってしまったんですよ。せっかくカリフォルニアに来たのに、スケートもサーフィンもすることができない。そう落ち込んでいたら、今度はその人が『絵を描いてみたら?』って、キャンバスを用意してくれて。言われるがまま、怪我がまだマシだった方の腕で絵を描くことにしたんです(笑)」
さまざまなカルチャーがクロスオーバーする、アメリカ西海岸・カリフォルニア。現地で受けた影響はかなり大きく、「当たり前ですけど、触れる景色が違えば、人も全然違う。クリエイティブなことに対しても応援してくれる」と、若いうちから“個”を尊重する土地・環境に触れてきた、彼の絵に対する向き合い方も自由そのもの。
「僕が主に使う描画材料はクレヨン。そこにペンやスプレー、たまにアクリル絵の具を組み合わることもありますが、この技法が正しいかどうかは……。ちゃんと絵を学んできた人からするとありえない技法かもしれないけど、僕にとってそれはどうでもよくて」
「描きたくなったらこのガレージに降りてきて、絵を描く。下書きもせず、いつもぶっつけ本番です。子供が落書きしているのと同じ感覚でやってますね(笑)。僕はそんなに集中力が続くタイプじゃないので、描くときは一瞬。黄色いキャンバスのような大きな作品も、1日で大体描き上げます」
生活の半分ぐらいは、海の上にいます。
絵を描きたくなったら、絵を描く。それと同様に、波が上がればサーフィンを楽しむ空雅さん。“サーフィンの聖地”と言われるサーフスポットから程近い場所に構える実家は、サーフィンを楽しむ上では好都合で、加えてリビングからはこの絶景である。一般的なサーファーであれば、その日の波状況を知るためにわざわざ海に足を運んだりするが、小高い丘の上に建つ彼の住まいは「家にいながら波のうねりがわかる」と眼下に海が広がる。
「自分の部屋は、基本的に寝るだけの場所。たまにそこでパソコンをいじったりもしますけど、ストックしているキャンバスで部屋が埋め尽くされ……。大体はリビングでのんびり愛猫と戯れています。でも、1日の大半は海の上にいるかもしれないですね。サーフィンもそうですけど、じつは最近、漁の仕事を始めまして」
まさにこの日、彼はシラス漁から戻ってきたばかり。取材後は休息の時間に充てると思いきや、そわそわとサーフィンの準備に取り掛かりはじめる。
「ちょっと波が上がってきたので、このあとサーフィンに行こうかなと」
今年からプロサーファーとしても活動している空雅さん。プロとして活動するためには、日々のサーフトレーニングが欠かせない。しかし、彼の頭の中にトレーニングという概念はあまりないよう。「絵もサーフィンも楽しんでやっているだけ」ただ“好き”という感情が、彼の原動力になっている。
好きが一番の原動力。周りを気にせず、やりたいことを。
「東京の友達に会いに行ったり個展をするなかで、都会ならではの魅力も感じますけど、自分のライフスタイルを考えると今の暮らしが一番しっくりきますね。豊かな自然に、眺望抜群なリビング。何より、ここには最高の遊び場があるので」
スケートランプからアトリエへ、“遊び場”としての使い方がシフトしていった原田家の実家下ガレージ。「今はここで、周りを気にせずに好きなことをしているのが最高に楽しいです」と、今日もまた彼は気が向くままキャンバスと向かい合う。プロサーファーとしてだけでなく、「これからは絵でも勝負していきたい」と語る彼がアーティストとしても名を轟かせるのは、きっとそう遠くないだろう。
- Photo/Ryosuke Yuasa
- Text/Chihiro Ito(GGGC)
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