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温もり​​と独特。アートのごとく唯一無二な、暮らしと制作の拠点。
ART & MUSIC 2025.01.06

温もり​​と独特。アートのごとく唯一無二な、暮らしと制作の拠点。

ファイバーアーティストとして活動するKariさんの制作拠点は自宅。関東から山形県へと移り住み、移住後に一目惚れした中古の一軒家を購入。リフォームを経て生まれ変わった住まいは家そのものがアートのようでありながら、人の心をほぐすような温もりが漂う。その理由をひも解くと、作品の素材である毛糸にも通ずる“手触り”があった。

INFORMATION
Kari Ishikawa(ファイバーアーティスト)
Kari Ishikawa(ファイバーアーティスト)
かり・いしかわ|服飾の専門学校を経て、桑沢デザイン研究所のファッションデザインコースへ進学。卒業後はテキスタイル分野を軸に幅広く活動し、2018年からは毛糸と毛糸をミシンで縫い合わせる独自の技法を用いたファイバーアートに専念。2020年に関東から山形県に移住し、住まいの一角に構えた「アトリエ糸好日」を拠点に制作を続ける。

関東から山形へ、移住先を拠点にアートピースを紡ぐ。

Kariさんはファイバーアーティスト。毛糸を素材に完全一点物のアートピースを制作し、とりわけ多種多様な動物をモチーフとしたアニマルシリーズは注目の的。紡がれた毛糸の温もりと動物の凜とした強さが絶妙に同居する。
作品の人気を背景に、Kariさんは引っ張りだこ。展示会やポップアップの依頼を受けるたびに日本各地を飛び回るが、彼女の拠点は山形県山形市。
しかも、その場所は山形駅前の街並みから距離を置いたのどかなエリア。

「私の夫は山形県出身。結婚を機に関東から山形に移り住み、最初は山形駅近くの賃貸物件に暮らしていたものの、移住から半年後に、またもお引っ越し。私は住む場所に対して、あまり執着心がないんです。これはきっと遺伝ですね(笑)。祖母も母も住まいを転々として、私自身も生まれてこの方、10回ほどの引っ越しを経験しています」

住む場所に執着しない。しかし、その言葉とは裏腹に、Kariさんの住まいはこだわりに満ちている。天井まで届くようなガラス窓から自然光が降り注ぎ、額装されたアートや骨董の品々が部屋に唯一無二の表情をもたらしている。

静かに黙々と、“自分たちだけの暮らし”がある場所。

「住みたい場所に暮らす。そんな感覚です。フットワーク軽く、今の家も一目惚れでしたね。夫がネットに掲載された物件情報を見つけて、すぐに見に行って契約しました。吹き抜けの窓はもちろん、住まいの周辺環境も決め手のひとつ。周りに家がなく、“自分たちだけの暮らし”を営めるくらいに静かなんです」

無論、アトリエスペースも住まいの一角。吹き抜けの屋根裏に作業テーブルを設え、テーブルの正面には外の景色を切り取るガラス窓。制作中に何気なく顔を上げると、窓の向こうの雄大な蔵王の景色が目に入る。

「静かな環境だと制作もはかどります。常に黙々と、外に出掛けるのは週に1、2回くらい。家の中だけで生活していると、ふと外の世界がないように感じる瞬間があるんです。その不思議な感覚がすごく好き。それにこの家は南東向きなんです。朝から太陽の光が差し込むので、毛糸の色をしっかりと見極められます。これも大切な要素です」

外界と切り離されたように静かな環境で、黙々と制作に向き合う。一方、住まいはギャラリーの一面を持つ。玄関は一般の住宅とは明らかに異なる表情を見せ、「最初のころは宅急便屋さんに驚かれましたね」と笑う。

「ここに引っ越したのは、コロナ禍のまっただ中でした。各地の展示会が中止になり、作品に触れていただける機会がなくなってしまって。それなら、と玄関をアポイント制のギャラリーに。最近はそうした機会は減ったものの、作品を目当てに山形にいらしてくれた方も、観光の途中に立ち寄ってくださった方もいて、うれしかったですね」

そして、コロナ禍のKariさんを支えたのが、吹き抜けの開放的な住まいを自由に駆け回る愛猫たち。展示会のみならず、コロナの影響によって結婚式も中止となり、その塞ぎ込んだ時期に家族の仲間入りをしたのが“すだち”。今では“キキ”と“ジジ”も仲間入りし、Kariさんは制作のかたわら保護ネコ活動にも精を出す。

毛糸と木と土。人の心をほぐす、手触りのある温もり。

「玄関をギャラリーとして開放したこと、保護ネコ活動を始めたこと。このふたつをきっかけに、山形のお友だちも増えました。平日は制作に集中する一方、週末は友人を家に招くことも多いんです。山形は車社会。お酒を飲むと運転代行が必須なので、家に集まるほうが気楽(笑)。みんなで料理を持ち寄って、にぎやかな夕食を過ごします」

ホームパーティーの場所はリビングダイニング。住まいの開放感もさることながら、広々としたダイニングテーブルを筆頭に木製のアンティーク家具が空間に温もりを添え、招かれた友人の心もおのずとほぐれるに違いない。

キッチンとダイニングを仕切るキャビネットにも、おもてなしのプレートやカップが美しくディスプレイされ、その隣にはバラの添えられたテーブルセットの絵画をレイアウト。絵になるインテリアにKariさんのセンスがにじむ。

「わが家の家具や雑貨は、ほとんどが木製か陶器製。私はどうやら、金属よりもウッドが好きだし、ガラスよりも陶器、つまりは土が好きなようです。これはファイバーアートの素材である毛糸を含め、木も土も手触りが豊か。好きなものを選ぶとき、私はいつも直感型です。きっと直感的に、手触りのある温かな素材を選んでいるんだと思います」

毛糸と木と土。それらはたしかに独特の手触りを持ち、その手触りが温もりを感じさせる。Kariさんは「家に新品の家具がないのも同じ理由です」と話し、アンティークの家具にも雑貨にも、誰かに使い込まれた温もりがある。そして、その温もりがにじむからこそ、この家はアートのごとく唯一無二の表情を見せながらも、人の心をほぐす。

マイホームを拠点に、いつかは“自らの作品を絵本に”。

手触りの家具や雑貨に彩られた住まいで、手触りのある毛糸を素材にアートピースの制作に勤しみ、展示会やポップアップの際には全国各地を飛び回る。静謐にして多忙な毎日を送りながら、今年新たに経験したのが海外旅行。その行き先はバッチャン焼きやソンベ焼きに代表される、陶器の名産地でもあるベトナムだ。

「旅行というと基本的に国内だったので、海外旅行は人生初だったんです。とはいえ、いろいろな土地を見て回るのは大好きです。作品づくりにも良い影響を与えてくれます。だから、今後はもっと海外の景色を見てみたい」

同時に「自分の作品と物語を掛け合わせたような、絵本をつくりたくて」とKariさん。その制作の舞台は、まさにこの家。時に外界の景色から刺激を受けながらもアトリエにこもり、新たな作品を生み出す。

そして、外界からの刺激を受けるべく旅行に出掛けるたび、彼女はきっと、旅先で心を動かされた雑貨を手に入れるに違いない。そのたびに新たなアイテムが部屋に仲間入りし、住まいの表情がより一層、豊かになっていく。

  • Photo/Sana Kondo
  • Text/Kyoko Oya
LL MAGAZINE