- 写風人さん ( フォトグラファー)
- しゃふうじん|長野県駒ケ根市在住の写真家。森で暮らし、薪ストーブは3台を使うヘビーユーザー。薪づくりや焚き火など生活そのものがアウトドアライフ。アウトドアブランドの「ファイヤーサイド」や「グリップスワニー」のオフィシャルカメラマンを務める。
- Instagram - @syahoo_jin
アナログな炎が心地いい、焚き火と薪ストーブのある暮らし
「皆さん、東京からおいでで? 遠いところからこんな山まで、運転も疲れたでしょう。今日は冷えますし、さぁどうぞ上がって。今、コーヒーでも淹れますから」
訪れたのは、2019年より岐阜から長野・南信州に移住し、薪ストーブを中心とした火のある暮らしを愉しんでいるフォトグラファー、写風人(しゃふうじん)さんのご自宅。玄関脇にある薪ストーブの上には薄くスライスされたリンゴとイチゴが並べられ、「嫌いじゃなければつまんでくださいね」とドライフルーツの甘い香りが家の中を包む。
父に連れられ、物心ついた頃からキャンプをしていたという写風人さん。その歴は50年を超え、なかでも彼が送る“焚き火と薪ストーブのある暮らし”はアウトドア愛好家から一目置かれる。
「小さい頃、父親の影響で西部劇が好きになり、映画をよく観ていたんです。その中に、カウボーイが焚き火しながら野営するシーンがあって。それがすごくかっこよく感じたんですよね。焚き火が好きになったきっかけは、意外とそれがルーツだったりもするんです」
「そして焚き火の楽しさにハマっていくと、いつしか薪ストーブにも憧れるようになり……。40歳で写真スタジオを新設したとき、念願だった薪ストーブをそこのロビーに導入したんです」
遡ること20年以上も前のこと。当時、彼は父の代から続く写真スタジオを岐阜で営んでいた。学校の卒業アルバムや結婚式、成人式の前撮りなどを主な生業とする、いわば“街の写真屋”である。
では、そんな街の写真屋を営んでいた彼が地元・岐阜県を離れ、ここ長野・南信州へ移住することとなるきっかけは何だったのか。
「実は、私のブログを目にした薪ストーブのブランド『ファイヤーサイド』の社長から、“うちの薪ストーブのカタログ撮影をしてくれないか”と連絡があり……。それが駒ヶ根市発のブランドだったんです」
「カタログ撮影の度に、駒ヶ根市へ訪れるようになるわけですが、南アルプスと中央アルプスの景色に圧倒され、改めて自然の良さに気付づかされたんです。元々どこかに移住したいって気持ちがあったので、これは駒ヶ根市に移住するしかないな、と」
「家探しの条件は、焚き火もできて、薪ストーブも使える家。物件探しには3年かかりました。ここは僕だけの焚き火フィールド。煙を上げても誰にも迷惑をかけることなく、好きな時に好きな焚き火を愉しめます」
焚き火台を使わないオールドスタイルの焚き火を好む写風人さん。ここ最近、焚き火グッズのトレンドはキャンプ場に持ち運びしやすい“軽量かつコンパクト”なのだが、「僕はキャンプ場とか行かないので、ギア選びに携帯性とかは関係なく、どっちかというとガシガシ使えるヘビーデューティーなものが多いです。ケトルやダッチオーブンとかね」とタフなアイアン製品を愛用している。
「薪割り」が日課。
薪ストーブに使う薪も、焚き火に使う薪も、その全てを自身で作る。
「一年通して、薪ストーブを焚かないっていうのは8月ぐらい。夏も意外と、7月ぐらいまで梅雨っぽかったりするので、部屋の中を乾燥させるために結構焚きますよ。そこから一ヶ月空け、冷え始める9月頃からまた焚きはじめて……。このサイクルで薪を消費すると、ストーブ1台に対して平均4トンの薪が年間で必要なんです。うちは計3台を炊いているので、12トンの薪を消費してます」
「3トントラックで原木を運んでもらって。それをチェーンソーでカットして、斧で割って……。生活に必要な薪以外にも、仕事で焚き火や薪ストーブの撮影をするので、年がら年中薪割りをしてます。え、オフの日があったら何をしたいって? ん〜、何もやることがない時は、……やっぱり薪を(笑)」
“炎”は撮影の対象物としても面白い
パチパチと音をたてて爆ぜる薪。焚き火には癒し効果があるとされるが、写風人さんにとって炎の魅力とは。
「もちろん、見ていて癒されるとか、料理ができるとか色々あるんですけど、撮影の対象としてもものすごく面白くて。同じ形にならないじゃないですか? 焚き方によっても変わりますし、気温や湿度によっても全然違う」
「炎の一番美しい瞬間をおさえるため、カメラのシャッターは結構切りますよ。あとで整理するの大変なんですけどね……」
「ファイヤーサイド」のほか、焚き火グローブで有名なブランド「グリップスワニー」のオフィシャルカメラマンも務める写風人さん。また、アウトドアメディアでは自身の連載を持ち、ライターとしての顔も併せ持つ。
都会暮らしにはない危険と、安心感
森暮らしを始めて3年。大自然ゆえに苦労することはあるのだろうか。
「ほんとに自然が豊かですが、その分、草刈りは大変です。虫もやたらと多いですね。あと、朝起きら“ロープがぶら下がってる”と思ったら、それがマムシより10倍の毒を持つとされるヤマカガシっていうヘビで。今は、ロープを見るだけでドキッとしますね(笑)」
「横のつながりは田舎暮らしの方がやっぱ強いですよね。ここらへんでは、町内会のことを隣組って言うんですけど、その付き合いは濃厚です。行事ごともそうですし、野菜を桁違いにいただいたりとか(笑)」
田舎暮らしは、都会に住むのに比べて利便性は劣るかもしれないが、行事ごとの集まりなど、周囲の住人とのコミュニケーションがある分、人の温かみに触れ得ることができる。それも写風人さんが送る、南信州・森暮らしの魅力なのかもしれない。
今日も薪を割り、火を操る
暖を取るためだけの火ではなく、見て癒され、料理を作り、部屋を乾燥させたり……。生活のあらゆるところに浸透している、アナログな炎。写風人さんによれば、マッチ一本の火でひと冬を過ごすことも可能なんだそう。
傍から見れば少々偏ったようにもみえる、焚き火を偏愛する暮らし。だが、写風人さんにとっては好きなことが仕事につながり、生活そのものが好きなことで溢れる、毎日がエンターテインメントな日々。
いつまでも好奇心を忘れず、今日もまた彼は薪を割り、火を愛でる。
- Photo/RYOSUKE YUASA
- Text/GGGC
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