多国籍な料理とうつわ。口尾 麻美の“No Dish, No Food”
旅と海外の食文化に触れることが大好きな料理家・口尾麻美さん。さまざまな国の食文化にインスピレーションを得て生まれた多国籍な料理レシピを発信している。 そんな口尾さんは、自他共に認めるうつわと雑貨好き。世界各地から集めたうつわや調理道具、雑貨が所狭しと並ぶ口尾さん宅は、まるで異国の雑貨店に迷い込んだよう。そんな見ているだけでワクワクするような空間で、口尾さんにとっての料理とうつわの関係について教えてもらった。
- 口尾 麻美(料理研究家・フォトエッセイスト)
- くちお・あさみ|旅で出会った食材や道具、ライフスタイルが料理のエッセンス。異国の家庭料理やストリートフード、食文化に魅せられ写真に収めている。旅をテーマにした料理は書籍や雑誌 を通して発信。道具好きで各国のキッチン道具を収集している。著書に『まだ知らない 台湾ローカル 旅とレシピ』(グラフィック社)他多数。2022年7月初のインテリア本刊行予定。
- Instagram - @asamikuchio
旅先から持ち帰る、異国感あふれるうつわたちに囲まれて。
「海外を訪れると、現地で出会ったうつわや雑貨たちを、スーツケースに入るだけ詰め込んで持ち帰ります」。口尾さん宅にあるうつわのほとんどは、トルコやモロッコ、リトアニア、台湾、タイなどの旅先から連れて帰ったものばかり。「旅に出るたびに、うつわも増えていく…」と笑う口尾さん。
口尾さんのうつわ好きの原点を尋ねると、「中学生の頃から好きなんです。“いつか使うかも”と集めていました」。当時から、メキシコ製などカラフルなものや手仕事の温もりを感じるうつわに惹かれていたのだそう。
たくさんのうつわたちは、仕舞い込むのではなく、「旅の思い出が詰まった大好きなものだからいつも見ていたい」と、すべて“見せる収納”で楽しんでいる。造作棚に重ねたり、フックに吊るしたり。これだけの量があれば雑多になってしまいそうなところを、こんなに素敵にレイアウトできるのは口尾さんのセンスの賜物。いろいろな国の文化が混在した空間は、まるで海外のインテリア誌を見ているよう。口尾さんのうつわ好きを物語っている。
旅先では問屋街や蚤の市などを巡り、何に使うかは考えず、その時に心を掴まれたうつわや調理道具たちを選んでいるという。なかでも、現地で日常使いされているようなものが好きだと口尾さん。
「使うたびに緊張するような高価なうつわはほとんどないんです。日用品やレストランで使う業務用など、現地の食文化や暮らしが垣間見えるような身近なうつわに惹かれます」
旅先で得るものは、うつわだけではない。現地で触れた食文化が口尾さんのレシピを考案する際の源になっているという。そんな口尾さんに異国の料理と、それに合わせたいうつわを紹介してもらった。
食卓に彩りと元気をくれる。<ウズベキスタンの伝統柄>
羊肉とたっぷりの野菜やスパイスで作るウズベキスタンのうどん「ラグマン」には、同じくウズベキスタンのボウルを。目が覚めるような鮮やかなオレンジとゴールドの縁どりに、ハーブの緑をアクセントとして。食卓にパッと彩りを添えてくれるし、気持ちも元気になりそう。
うつわは、トルコで出会ったというお気に入りのもの。旧ソビエト連邦時代に生産されていたヴィンテージで、ウズベキスタンの伝統柄「イカット柄」が施されている。
「ウズベキスタンにはまだ行ったことがなくて、いつもトルコにあるウズベキスタン雑貨の専門店で購入しています。何度も通ううちに店主と親しくなり、倉庫で店頭にないものを見せてくれたり、びっくりするくらい安くしてくれたり。伝統的な刺繍“スザニ”のクッションカバーもくれました(笑)」
使い勝手が良く、ローカル感も演出。実用性も兼ね備えた<アジアのステンレス皿>
アジアの国を訪れると、誰もが目にしたことがあるだろうステンレスの平皿。
「湿度が高い国では、ステンレス皿は衛生的で好まれるんです」。長い串に刺すケバブには、ぴったりと収まる楕円型が欠かせない。「現地の雰囲気も出るので、それだけで食卓が楽しく豊かになります」
ステンレス皿は、料理を盛り付けるだけでなく、調理前の野菜や食材を盛ってバッド代わりにも使っているという口尾さん。
「焼肉の時にこれに肉を並べると、一気に焼肉屋さん気分ですよ」
自由自在に楽しめる。<ベトナムで集めたキッチュなプラスチック皿>
お茶請けにぴったりなベトナムのココナッツのお菓子は、カラフルでキッチュなベトナムのプラスチック皿がお似合い。「お茶請けや、春巻きや唐揚げなどちょっとしたおつまみを盛ってもいいし、アジアのハーブやレモンなどの薬味入れにも。取り皿としてはもちろん、グラスの下に敷けばソーサー代わりに。アクセサリー入れにしてもいいし、自由自在です」
口尾さんいわく、プラスチックの皿は時代の流れで、今後なくなってしまうかもしれないのだとか。
「時代と逆行しているかもしれないけれど、ひとつの文化として、私は愛用しています。長く大切にしていきたい」
固定観念にとらわれず、自由にうつわと向き合う。料理にもディスプレイにも。
食卓でうつわを選ぶ時は、料理やうつわの色のバランスを見ながら考える口尾さん。一方で、自由に好きなうつわを直感で選ぶのも楽しいという。
「料理とお皿を同じ国で合わせるとぴったりくるとは思うけど、あえて異国同士を合わせるのもおもしろい。例えば、私は普段お味噌汁も焼き魚も和食器ではなく多国籍なうつわでいただきます。マグカップとスプーンで、お味噌汁を飲むのも好きなんです。固定観念を持たずに、自由な使い方が好き。形はできるだけシンプルなものを選べば、柄が合わなくても料理で隠れるから大丈夫(笑)」
「使用頻度に差はあれど、日常でとにかく“使う”ことがモットーです」
料理を盛り付けるだけでなく、調理道具としても活用するのが口尾さんのうつわとの付き合い方だ。
「ボウルが好きでたくさん持っています。大きなボウルには、普段は野菜やフルーツ、卵などを入れてキッチンに置くと、それだけでキッチンが楽しい場所に。また専用の調理道具がなくても、卵をかき混ぜるのに使ったり、調理前の野菜や食材を入れておいたりと大活躍」
また、料理シーン以外にも部屋のあちらこちらでうつわが登場。洗面器サイズの大きなボウルに海外の缶詰を入れたり、柄がかわいい豆皿も平たいカゴにまとめたりと、収納しながらディスプレイとしても活躍している。
「海外の人は、あるものを工夫しながら使うのが上手。現地の友人宅やレストラン、雑貨店などで見かけたアイデアを真似しています。気に入って買ったうつわだからこそ、使えば使うほどさらに愛着が生まれます」
色鮮やかなうつわや雑貨が次々と目に飛び込んできて、ストーリーを聞きたくなる口尾さんのお宅。お料理教室でも生徒さんたちから聞かれることも多いとか。
「聞いてもらうと嬉しいし、うつわが会話のきっかけにもなりますよね」
難しいことは考えず、“好き”を大切に楽しんでみる——。口尾さんの固定観念にとらわれない自由なうつわの楽しみ方は、いつもの食卓や暮らしをちょっと違った風景に見せてくれそうだ。
- Photo/Shohei Kabe
- Text/Hitomi Takano
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