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家で楽しむ弁当のススメ
FOOD & HEALTH 2022.08.19

家で楽しむ弁当のススメ

梅田 啓介/お弁当アーティスト

シュールささえ感じるユーモラスなお弁当の数々が見る人を惹きつけ、“お弁当アーティスト”として雑誌やテレビにも登場する梅田啓介さん。単なるお弁当ではなく、お弁当をアートとして仕上げることの醍醐味はどこにあるのか。梅田さんが作るお弁当アートに迫りつつ、お弁当を家で食べることの楽しさにフォーカス。家弁当の新たな魅力を開拓します。

INFORMATION
梅田 啓介(お弁当アーティスト)
梅田 啓介(お弁当アーティスト)
うめだ・けいすけ|職場で食べるお弁当作りを始めたのをきっかけに、お弁当アートに開眼。キャラ弁とは一線を画す、まさに芸術作品なお弁当が話題を呼び、雑誌やテレビにも出演。妻とふたりの娘と共に京都に暮らす。

お弁当アートの始まりは、魚の頭だけをのせた斬新弁当。

梅田さんの肩書きは、お弁当アーティスト。この肩書きに誇張はなく、彼のInstagramに並んだお弁当の数々は、まさにアート。シンプルなお弁当箱に敷き詰められた白いご飯をキャンバスに、絵画のごとくモチーフを描き出すだけでなく、食材のビビッドな色彩も、フォルムや質感をもそのままに生かした作品たちは、まるで斬新なテキスタイルのようにも映る。

「お弁当を作り始めてから10年になります。最初はアートなんて意識は微塵もなく、目的はあくまでも健康管理や節約。ついでに料理が上達すればいいな、くらいの感覚だったんです」

しかし、「何より楽しいもの、楽しいことが好き」という梅田さん。お弁当を作るにも、ひと筋縄にはいかない。料理の練習がてらに作った魚の煮付けから頭だけをのせたお弁当を作ったところ、これが職場で大ウケ。人の目を奪い、人を楽しませるお弁当作りを追求した先に、お弁当アートが誕生した。

家族それぞれが好みを選べる、おばんざいスタイルに挑戦。

「職場だったり学校だったり、ピクニック先だったり。お弁当って“家の外で食べるもの”というイメージが強いですよね。僕も普段は職場のお昼としてお弁当を作っているので、テレワークが増えた最近は、お弁当作りの頻度が減っていて」

そこで今回はお弁当の新たな可能性を開拓すべく、“家で家族と一緒に楽しむお弁当”にトライ。自宅で作って食べるなら、いつもは冷めてしまうお弁当も温かいまま。食材が傷む心配もないことからメニューの幅も広がり、出来たてを家族一緒に堪能できる。
これまで、自宅でお弁当を食べる機会はなかったという梅田さん。日常のお弁当作りとはちょっと異なるシチュエーションに腕が鳴り、彼が立てたテーマは京都住まいの梅田さんらしい「おばんざい」。

「お弁当は箱に詰めた段階で完成します。でも、せっかく家族一緒に楽しむなら、詰める料理を選べるほうが面白いと思って。京都らしく、大皿に盛り付けた複数の料理をおばんざい形式で並べて、家族一人ひとりが好みの料理をオーダー。それを僕がお弁当箱に詰めていきます」

梅田さんがおばんざいとして作った料理は全9品。家族を楽しませ、喜ばせるため、奥さんが好きな鮎の塩焼きに長女が好きな唐揚げとウインナー、次女が好きなトマトといったように、家族の好物をしっかり盛り込んだ。

物珍しさは不要、身近な食材のインパクトをアートに昇華。

すべての料理が完成したら、いざ、お弁当箱に盛り付け。ここからがお弁当アーティストの腕の見せどころ。梅田さんの目論見どおり、家族それぞれが自分の好物をオーダー。一人ひとりの好物を主役に、おいしく美しい、アートなお弁当に仕上げていく。

「どんな風に料理して、どのように盛り付けるのか。インスピレーションの源は、スーパーの食材売り場にあります。珍しい食材を使うことはせず、身近な食材を面白く、斬新に見せたくて。トマトとだし巻き玉子の下に敷いた『ひじきと黒ゴマの甘辛煮』も、その一例。ふたつの黒い食材を掛け合わせると、こんなにも漆黒の料理が生まれるのか!って(笑)」

黒々と仕上がった「ひじきと黒ゴマの甘辛煮」は、トマトが好物の次女のお弁当へ。白ご飯の上に甘辛煮を敷き詰め、さらにトマトとだし巻き玉子をレイアウト。漆黒の甘辛煮がパキッとビビッドな赤と黄色を引き立たせ、ついつい目を奪われる。

「日本にはキャラ弁の文化がありますよね。キャラ弁は何かしらのモチーフに合わせて食材を当てはめていきますが、僕の場合は食材自体のビジュアルや面白さを押し出したくて。塩焼きにした鮎はちょっとしたグロテスクさも含めて美しいし、タコさんウインナーのフォルムも唐揚げのジューシーな色合いも、それだけでインパクト十分です」

食材が持つインパクトを、どう際立たせるのか。それが梅田さんの作るお弁当アートのコア。食材のビジュアルを大事にするだけに、料理前には仕上がりのイメージをスケッチ。ふと思いついたアイデアを書き留めることも多く、そこから膨らんだアイデアをアートに昇華させていく。

食卓も格好も作り込めば、お出かけに負けない高揚感。

「家で食べるためのお弁当を作ったのは、今回が初めて。せっかくの初体験なので、おばんざいをテーマに“お家酒場”というシチュエーションを想定してみました。何事も形から入るのが好きな性分とあって、今日の僕の格好も小料理屋の大将をイメージしています(笑)」

お弁当そのものは、けっして特別なものではないかもしれない。でも、普段は外で食べるお弁当を家で食べたなら、それだけでちょっとしたアクティビティに。さらに食べるお弁当がアート仕立てとなれば、特別感もひとしお。事実、「娘ふたりも、いつも以上にパクパク食べてくれました!」と満足顔の梅田さん。

「今回、おばんざいというテーマを立てたのは、家族に“選ぶ楽しみ”も味わってもらいたかったから。そうした楽しみはもちろん、個人的にはおばんざいの魅力を再発見。おばんざいって、とにかく季節感を大事にするんです。旬の食材はおいしさだけでなくビジュアルもひときわ美しいだけに、僕のお弁当作りにも欠かせないポイントです」

家族一緒に食卓を囲むひとときは、やっぱり楽しい。

アートとしてのお弁当のみならず、“家で楽しむお弁当”という新たな楽しみを開拓してくれた梅田さん。実は梅田さん一家は引っ越しをしたばかり。慣れ親しんだ京都の町に建てたマイホームは、天然素材を多く採用。造作だという天然木のラックには、梅田さんが過去に創作したお弁当アートを描いた絵画が並ぶ。

温もりある天然木をベースに、部屋のそこかしこのアクセントになっているのが紅白の色彩。何を隠そう、梅田さんの長女の名前は紅ちゃん、次女の名前はしろちゃん。いかにもアーティストらしい個性的な部屋のあしらいの裏には、娘への愛情が詰まっている。

「ダイニングテーブルをちゃぶ台にしたのも、家族がぎゅっと密着してご飯を食べたかったから」と梅田さん。食事は毎日の活力源であり、食事のひとときは家族団らんの時間。家族の日常にちょっとマンネリを感じている人こそ、ダイニングで家族一緒にお弁当を味わってみてほしい。そうすればきっと、家族で食卓を囲む楽しさを再確認できるはず。

  • Photo/Kenji Utsugi
  • Design/Kentaro Inoue(CIRCLEGRAPH)
  • Text/Kyoko Oya
LL MAGAZINE