身近なモノの視点を変えて。“おもしろい”家遊び。
大村卓/プロダクトデザイナー
日常の中に、ちょっとした“おもしろい”視点をみつける達人、プロダクトデザイナーの大村卓さん。本業の傍ら、Twitterで発信している子供のために作った作品たちが、密かに話題になっている。そんな大村さんは、どんな視点で家遊びを楽しんでいるだろう。大村さんの頭の中を覗いてみよう。
- 大村 卓(oodesgin代表/プロダクトデザイナー)
- おおむら・たく|大学卒業後、設計事務所を経て建築金物メーカーに勤務。2009年oodesignを設立し、プロダクトデザインを中心に活動を開始。生活雑貨、文具、家具など身の回りのもののデザインを行う傍らオリジナル製品開発も手がけ、ジャンルにとらわれない振幅の大きい活動を心掛けている。Twitterでの発信も盛ん。
- オンライストア
視点を変えると、日常がもっとおもしろくなる。
「日々の生活のなかで、こういうものがあったらいいなとか、もっとこうしたらおもしろいのにとか、常に気になってしまうんです」。そう話すのは、プロダクトデザイナーの大村卓さん。そんな“気になること”をデザインに落とし込み、ユニークな日用品を制作している。
大村さんのモノづくりは多岐に渡るが、オリジナルプロダクトは、どの作品も身近な体験からの気づきを起点に、枠に囚われない独特な発想が存分に盛り込まれている。
例えば、職人と一緒に作る木製のダンベル。神社仏閣で古くから用いられてきた木彫の技術を、ダンベルという身近なものに取り入れた。「これまでは大きな建物に施されていた彫刻の装飾を、あえて手に持って使える物にしてみようと思って」
巨大なセミの翅の形をした“せみうちわ”も「セミが羽ばたいて風を起こして飛んでいるのであれば、その翅を巨大化したうちわがあれば、いい風が来るのでは」と、サイズ感からフラットに考えたアイテム。
まず、視点を切り替えてみる。そして、新たに違う形や物に置き換えて、機能を持たせてみる。これが、大村さんのモノづくりのプロセスだ。
“今までになかった視点を入れてみる”といっても、なかなか難しいもの。今でこそ、日々アイデアが湧き出ているように見える大村さんも、最初は今あるものから頭が離れられなくて、なかなか新しいものができなかったそう。
「初めの頃は意識的に考えるよう訓練していました。日常にあるものがどんな素材で作られていて、違う素材を使ったらどうなるのか。その“考え”を日々ストックしておいて、随時引き出して組み合わせながら、モノづくりをしています」と大村さん。
とりあえず、気づいたことや思いついたことは、スケッチしたり、メモしたりして書き出し、アイデアをストック。アウトプットしていくと、これまで気づかなかったことに気づいたり、新たな視点が生まれたりするのだそう。
波紋のような形をした水に浮かべる一輪挿しも、ある時もらった花を生ける花瓶がなくて、洗面器に入れて置いたまま枯らしてしまったことがきっかけで、生まれたもの。
「花にも、くれた人にも申し訳ないなと思って。花瓶がなくても、花をいけるにはどうしたらいいかと考えたんです。透明で波紋のような形にすれば、花だけが水面にスッと立っているように見えるかと」
常に新たな視点でモノを見ていると、何気ない日々の暮らしの中に“おもしろい”発想のヒントを見つけられるのだろう。
思いついたら、とりあえず作ってみる!
洗練されたプロダクトが多い印象の大村さんだが、Twitterでは身の回りにあるものを使ったクスッと笑える作品が話題になっている。
アイデアはまず形にして商品化できそうだったら販売を目指すのですが、1回限りの“ネタ”だなと思ったら、Twitterにあげて供養しています(笑)」
“思いついたら、とりあえず作ってみる”をモットーにしているようだ。
そんな大村さんがTwitter供養に出したというアイテムは、ユニークながら家にあるもので真似できそうなものばかり。
子供にお年玉をあげるにあたって、何か小ネタを仕込みたいと制作したのがこちら。小銭でも喜んで欲しいという思いから生まれた50円ダンベルだ。「3Dプリンタで部品を作ってはめています。お金の重みを体験してもらいたいと思ったのですが…」
そんな親の気持ちとは裏腹に、「『どうだ、お年玉だぞ』って渡したら、『少なっ!紙の方がいい』と。すぐ外して、貯金箱に入れていました。お金の重みは感じてもらえませんでした(笑)」
“おもしろい”を重視。子供の喜ぶ顔が見たくて作った物たち。
こちらは長女のお気に入りだったIKEAのぬいぐるみ。動いたら喜ぶだろうとリメイクしたそう。「くにゃくにゃしたぬいぐるみだったので、それを生かしつつ、走っているように見えればいいかなと、ハンガーに糸をつけて前後に動くようにしました」と大村さん。もたれた首と尻尾が、なんともシュール。
「娘は、あまり反応しなかったですね。最初の30秒くらいは食いついてくれたけど、すぐどっか行っちゃいました(笑)。これはTwitterでも反応があまりなかったのですが、まさかこんな形で、日の目を見るとは(笑)」
一方で好評だったというのがこのドーナツ。長男が初詣で「ドーナツ100個食べれますように」とお祈りしていたのを聞いて、その夢を実現させたんだそう。
「100個なんて現実的に食べられないし、どうせ1〜2個食べて終わりだろうと思ったので、ミニチュアにしました。写真で大きく写せば、本当にドーナツを100個作ったと思われてTwitterでも話題になるかなと(笑)」
ドーナツの生地は、3Dプリンタで作った直径1.5cm程度のドーナツ型で型抜きしている。
「本当に小さいので、一瞬で揚がります。ただ、型抜きがなかなかハード。息子もこれは珍しく食いついてくれました。自分に利益があることには食いついてくれるんですよね(笑)。兄弟みんなで食べたのであっという間になくなりました。100個でも通常のドーナツにしたら1〜2個分くらいの量だと思います」
誰しも一度は見たことがあるだろう水道修理会社のマグネットさえも、アイデアひとつで子供のおもちゃに。
「事務所に遊びにきた息子が、暇だというので作ってあげたんです。遊び終わったらすぐ捨てちゃうんですが、しょっちゅうポストに入っているから、みつけるたびに作ってと言われましたね」
家遊びは瞬発力が勝負。その場にあるもので工夫しよう。
企業のプロダクトから子供が喜ぶネタアイテムまで、幅広いアイデアを形にしている大村さん。プロダクトデザイナーとしての本業と子供をと楽しませるようなむモノづくり、アイデアの起点や視点に共通点があるのか尋ねてみると、「考え方や形になるまでのプロセスや目的は違うけど、どちらも日常をテーマにフラットな視点で物を捉えている点は、共通しているかもしれませんね」と話す。
仕事の場合は、あらかじめお題やある程度の道筋がある一方でけれど、子供向けはゼロからの思いつきが大切なんだとか。「その場にあるものでなんとかする、思いついたことをすぐ形にしてみるというような、瞬発力を大事にしています。一般的にプロダクトデザイナーは商品化するものをデザインしますが、自分の場合はそうじゃないアイデアもいろいろと浮かんできてしまうので、子供が喜ぶものをと言いつつ、日々の創作欲を満たしているような感じです。製品としての価値はないけど、1発ネタとしてはありかなと(笑)」
2つの方向でモノづくりをすることで、自分の中でのバランスを取っているという大村さんだが、「最近ちょっと思いつきのアイデアの方に気持ちが向いてしまって、やることはたくさんあるのに、ついついそっちの制作に夢中になってしまうことも(笑)。もしかしたら、瞬発力系の制作の方が向いているかも?と考えているところです」
大村さんのように、固定観念に囚われないフラットな視点で物を見ることで、日常のいままで気づかなかった“おもしろさ”を発見することができる。家の中や身の回りにあるようなアイテムも見方を変えれば子供との家遊びも、ひと味違ったものにしてくれるかもしれない。
- Photo/Naoki Usuda
- Text/Hitomi Takano
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