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築40年の日本家屋に暮らす。北欧に学ぶ、Do It Yourself!な住まい。
GREEN LIFE 2022.09.20

築40年の日本家屋に暮らす。北欧に学ぶ、Do It Yourself!な住まい。

#001 長野県松本市

家での時間がグッと増えた昨今、おうち時間を充実させることは大事なテーマ。そこで心地いい暮らしを追求し、暮らしそのものを謳歌する人たちにフォーカスする「#みんなの暮らし」。今回、登場するのはスウェーデン人の夫と共に北欧に暮らした経験を持つ、桒原さやかさん。築40年の日本家屋をセルフリノベーションして暮らす桒原さん一家の住まいから、“何事も手作り”から広がる家の可能性が見えてきました。

INFORMATION
桒原 さやか
桒原 さやか
くわばら・さやか|大学卒業後、「イケア」「北欧、暮らしの道具店」に勤務。退職後はスウェーデン人の夫と共に、オーロラの眺めで知られるノルウェーのトロムソに1年半ほど移住。2017年冬に帰国し、長野県松本市に暮らしながらフリーランスのライター、エッセイストとして活動。近著は『家族が笑顔になる 北欧流の暮らし方』。

北欧が教えてくれた「DIYは旅行に負けないイベント」。

桒原さん一家が暮らすのは、長野県松本市。松本に引っ越す以前はスウェーデン人の夫、オリバーさんと共にノルウェーで生活を送り、2020年の春に日本へ帰国。「さて、どこに住もうか?」と考えたふたりは北は北海道から南は福岡まで、日本の気になる土地を旅して回ったそう。

「私にも夫にも、松本はちょうどいい街。東京や横浜に住んでいたときは人混みってなんだか苦手、なんて思っていましたが、長く住むなら人の温もりを感じられる場所が理想的。人混みは得意ではないけれど、人の温もりは感じていたい。そうした私たちにとって、松本は豊かな自然に恵まれつつも適度ににぎやか。そのちょうど良さが心地いいんです」

松本は歴史ある城下町。何世代にもわたって暮らす人もいれば、街の居心地の良さに惹かれて引っ越してきた人も少なくなく、桒原さん曰く「新旧の入り交じった街」。そうした街だけに年季の入った建物が多く残り、ふたりが購入したのも築40年を数える木造一軒家。リフォームして暮らすことを決めるも、見積書に書かれていたのはなかなかの額面。そこでふたりが選んだのが、セルフリノベーション

「和室の畳をフローリングに張り替えたり、壁に漆喰を塗ったり。DIYのハウツー動画を見ながら、夫も私も見よう見まね。動画どおりにいかないことも多く、すごく苦労したんです。でも、それが今ではいい思い出。当時を思い返すと自分たちの必死さがおかしくて、忘れようにも忘れられません(笑)。北欧の友人が言っていた『DIYはイベント』という言葉を実感しました」

暮らしを大切にする北欧の人たちにとって、自分たちの手で暮らしを良くすることは旅行にも負けない一大イベント。スウェーデン出身のオリバーさんにも北欧のDNAが受け継がれ、子ども時代に経験した日曜大工の記憶を頼りにセルフリノベーションの舵取りをしたのも彼だったそう。

「夫には多少の経験があったものの、私にとっては初挑戦。完全なる素人でしたが、何事も成せば成る、ですね。今では子ども部屋に柄物のクロスを張ったり、この夏にはDIYをイベントとして楽しむ北欧の人たちに倣い、ダイニングの壁の一部にクロスを張りました。よくよく見るとシワになっているところもありますが、それも愛嬌です(笑)」

ふたりは引っ越しから約2年が経った今も部屋のアレンジを続け、子ども部屋もポップな壁紙にチェンジ。さらには「こんなにも気持ちいい緑の景色が広がっているなんて、住み始めてから知ったんです。それに気づいたからには1枚ガラスにしたくて」と桒原さん。この願いを受け、オリバーさん自らが窓枠から格子を外し、キッチンの前にはガラスを付け替えたそう。

テラスもサウナも、非日常の楽しみが日常の延長線上に。

夫婦の二人三脚によって生まれ変わった木造一軒家は、築40年という歳月を感じさせないくらいにモダン。間取りはリノベーション前のまま、部屋を細かく仕切っていた戸の多くを外したことから空間全体が広々。漆喰の白壁が光を巡らせるだけでなく、ふたりはダイニングに面した場所にテラスまで自作。

「マンションではなく戸建てを選んだ理由のひとつが、子どもが駆け回れるくらいの開放感がほしかったから。それに住まいが広々していれば、ご飯を食べる場所も選びません。ダイニングのテーブルやリビングの円卓にテラスと、我が家では気分によって食事をする場所を変えているんです」

セルフメイドのテラスにはパラソルも設置され、普段の何気ない食事もおやつの時間も、テラスならちょっとしたバカンス気分。ちなみに“ダイニングは食事の場所、リビングはくつろぐ場所”といったように部屋の用途を明確にせず、その時々の気分によって使い分けるのも北欧流の考え方だそう。

そして、何よりも北欧流を感じさせるのが、住まいの庭に佇んだサウナルーム。サウナの熱をじっくり堪能できるベンチに蒸気を発生させるサウナストーンまで完備する本格派ながら、このサウナルームもオリバーさんのお手製というから驚き。セルフリノベーションによって得た知識を頼りに一から基礎を打ち、熱源となる薪ストーブまで自ら導入した自信作。

「長野という土地柄、冬はそれなりに冷えるんです。でも、さすがは寒さの厳しい北欧発祥の文化ですよね。サウナで温まるとポカポカが持続するんです。子どもには熱すぎるかと思いきや、心配無用でした。長女なんて自分から『今日はサウナしないの?』と言い出すんですよ(笑)」

自宅にサウナがあるなんて、なんとも贅沢。しかも、松本は知る人ぞ知る温泉地。街のそこかしこに大小の温泉施設があり、多くの人にとっては非日常の温泉までもが日常の延長線上。桒原さん一家にとって近所の温泉は「大きなお風呂」というから、うらやましい限り!

おでかけも不要になるくらい、暮らしの楽しみをDIY!

部屋の広さ以上に、私たちが戸建てを選んだ最大の理由が庭です。庭があると子どもがのびのびと遊び回れるし、それに私以上に日本文化を愛する夫は縁側が大好き(笑)。庭の面した縁側があったことも大きな決め手です」

芝生には手作りの砂場まであり、はしゃぐ子どもたちを縁側から眺めるひとときは、桒原さん夫婦にとって日常のひとコマ。砂場の隣には焚き火用のスペースまで作られ、キャンプさながらの時間を楽しむこともしばしば。焚き火を囲む様子は近所の人たちの興味も引き、何気ない会話をゆっくり楽しみながら一緒に炎を眺めることもあるとか。

「この焚き火スペース、キャンプに出掛けたときの練習用に夫が作ったんです。でも、近所の人たちと一緒に焚き火を囲んだり、焚き火で煮込み料理を作ってみたり、庭でも十分に楽しめてしまって。結果的に、未だにキャンプには行けていません(笑)」

おでかけの必要がなくなるくらい、暮らしをエンジョイする桒原さん一家。その庭には “家庭菜園”というフレーズでは物足りないくらいに立派な畑も。住まいの裏手にある山の傾斜を段々に耕し、ミニトマトやキュウリにナスにゴーヤ、畑から漂う爽やかな香りの理由を聞くとパクチーまで育てているそう。

「やっぱり自分たちで育てた野菜だと、子どもたちの目の色が変わりますね(笑)。好き嫌いなく食べてくれます。今はいろいろな種類の野菜を少しずつ育てているので、来年は種類を絞ろうと思っていて。少しの種類をたくさん育てて収穫して、一食まるっと自家栽培の野菜で作るのが目標です」

自分たちで育てては味わう野菜も、テラスやサウナに焚き火も、桒原さん一家の暮らしには心弾ませる楽しみがそぐそばに。そして、北欧の人たちが教えてくれた“DIYはイベント”という言葉を思えば、必要なのは思いのままに手を入れられる住まいだけ。そこに暮らしやすさも楽しみも自ら作り出すDIY精神さえあれば、家はもっと楽しくなる。

  • Photo/Harumi Shimizu
  • Text/Kyoko Oya
LL MAGAZINE