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街と山の行き来もDIYも、ほどよくゆるく続く二拠点生活。
OUTDOOR 2023.01.27

街と山の行き来もDIYも、ほどよくゆるく続く二拠点生活。

まだ二拠点生活という言葉が一般的ではなかったころ、神奈川県の山中に物件を探してコツコツと趣味の住まいをDIYで作ってきた中村さん。安定やフォーマットに沿った生き方から、できるだけ遠くいるように意識しているという山での暮らしはどのような感じなのだろうか。都内から車で2時間ほどの場所にある一軒家をたずねた。

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中村 秀一(SNOW SHOVELING店主)
中村 秀一(SNOW SHOVELING店主)
なかむら・しゅういち|東京・駒沢にあるブックストア兼ギャラリー、スノウショベリングの店主。所狭しと並んだ本のほか、雑貨やアパレル、ディスプレイまで購入できるユニークな店内では、イベントも開催。本、物、人との偶然の出会いを楽しむスペースとなっている。

誰にも気兼ねすることなく、焚き火と薪割りを楽しめる場所が欲しかった。

中村さんが山暮らしを模索するようになったのは、直火で焚き火ができる、また近所を気にせず薪割りができるパーソナルスペースが欲しいと思ったからだ。
「アウトドアが好きで、いつか山小屋で生活してみたいという淡い願望はありました。でもまるっと移住というより、遊び場が欲しかったんです」
都内に自分の店もあることから、現在の生活をガラリと変えるまでのつもりはなく、休みの日に環境を一新できる、都会から離れて自由に過ごせるスペースを探してみることに。

都内からほぼ直線方向、高速道路を使わずに車で2時間以内で来られることを条件にエリアを決め、休みのたびに通っては集落をバイクで散策する日々を1年ほど続けた結果、たどり着いたのがいまの物件だ。秘密基地感たっぷりの外観に引き込まれたそう。

都会とは24時間の使い方がまったく変わる、アナログな空間。

山の住まいは主に本を読んだり音楽を聴いたり、普段とは異なる環境で趣味に浸れる空間を目指した。
「今っぽく言うとデジタルデトックスをするための空間ですね」
読書にレコード鑑賞、ギターに縫い物。都会にいたら流してしまうような些細なことや、アナログな作業もここではじっくり時間を使って取り組める。

アメリカンカントリー風のインテリアは、映画『ツインピークス』をイメージ。都内の生活では当たり前にある家電はできるだけ排除したため生活感がなく、それも趣味に没頭できるポイントだろう。「一番ツインピークスっぽい場所」という1階のダイニングエリアの壁には、ハンティングトロフィーの鹿が銃(もちろん偽物)を持っているようにディスプレイされ、さらに先端には花が咲いているなど細かな部分まで遊び心たっぷり。

またテーブルや棚などのファニチャー類は拾ってきたり、住まいの近くのリサイクルショップでガラクタ価格で見つけたものがほとんど。好きなときサッと使えるレコードプレーヤーや、読書に集中できるソファスペースなど、手っ取り早く理想のファニチャーを持ってくるのではなく、いまあるものをどうやって理想に近づけるかを考え、手を動かして理想のものを作り上げることをテーマにして完成させた。

2階のベッドルームに移動するためには外階段を利用するしかないユニークな作りも、この山の家の特徴。階段を上がると広い屋根付きテラスがあり、奥が書斎兼寝室になっている。
「唯一、夜中のトイレが不便なんですよね……。真っ暗で階段が見えないんで」と言いつつそれすら楽しそうだ。

永住目的じゃないから思い切れる、時間に追われることもないDIY。

いまでは映画に出てきそうな住まいに仕上がっているが当初の建物は住めるような状態ではなかったという。
「1階の床はボロボロだったんですべて張り替えていて、棚という棚はすべてDIYしました」
休みのたびに通ってはコツコツと直し、なんとか寝泊まりできるようになったのが半年後。
「でも幸いなことに核となる柱と2階のテラスはしっかりしていて、お風呂の給湯器とか水回りだけはプロの手を借りましたが、残りは自力でなんとかなりました」

こだわったというのが、この寝室の本棚とレコード棚。棚板の間隔は本の高さに合わせ、私物ぴったりのサイズになるよう微調整ができるように考えられている。こうした本業から離れて夢中になれる作業は疲れるどころか、次はなにをしようか考えるのが楽しくて仕方がなかったとか。

家の中でもっとも気に入っているというキッチンカウンター。イチから作り上げた大作で、天板の一部が跳ね上がるようになっており、そこには鉄板、ではなくホットプレートが設置されている。
「鉄板焼き屋が好きでそのカウンターをイメージして作りました。ホットプレートだけど雰囲気は出てるでしょ?(笑)」
作る人も食べる人も楽しい仕掛けなど、遊び心を迷わず形にできるのも定住目的ではないセカンドハウスならでは。生活拠点は別にあるから完成を急がなくてもいいし、なんなら完成しなくても問題ない。少し作業しては都内の家に帰る。そんなゆるいペースが中村さんの生活サイクルとテンションにマッチしたのだろう。

いわゆる二拠点生活はもう5年になる。
「はじめは明かりすらなかったので、どこに明かりを設置するか、どのように配線するかも手探りで。でも電球ひとつに明かりが灯るだけなのに感動するし、都内にいると大したことない作業もここでは成功体験になるので、自己肯定感が上がることも発見でした」
思いついたことを実践して上手くいったりいかなかったり。そんな試行錯誤を繰り返しているうちに中村さんのなかで新たな波が立ち始めたという。

「最近縁あって、岡山の業者から移動図書館だった車両を購入したんです(笑)。店の10周年を機に本と一緒に旅ができたらおもしろそうだなぁって。ここでの生活がなかったらわざわざ車両を見に行くこともなかったかもしれない」

都会の生活に慣れてしまうと新しいことをはじめるにはトレーニングが必要だと語る中村さん。自身も山の住まいに通いはじめて物事を前向きに捉えられるようになったことも大きな収穫だ。
「ここにいると、やってみよう、やってみたいと素直に思えて後先考えずに行動に移せるんです。行動が子どもの時のように戻っていく感じですかね」

生活拠点は都内にあるので、通う頻度も季節によってまちまち。取材の日も山の住まいに来るのはかなり久しぶりとのことだったが、もうひとつの家ができたことで都内での生活にメリハリが出てくるなど、行き来することで相乗効果も生まれている。「都内にいるときは山の住まいでやりたいことがあれこれ浮かんで、山の住まいにいると都内に戻ってからやりたいことやいいアイデアが浮かんだりして。おもしろいですよね」

仕事がある都会での生活と好きなことに没頭できる山での生活。この先ずっと東京に住み続けることは考えておらず、山での生活を体験したことでいつかは別の土地への移住してみたいという願望もあるが、今の中村さんにとって、生活拠点と趣味を楽しむ場所を移動する2時間がちょうどいい距離感なのだろう。

  • Photo/Seiji Sawada
  • Text/Mihoko Odamaki
LL MAGAZINE