- 遠藤慎也(インテリアスタイリスト/BOOTSYORK代表)
- えんどう・しんや|1984年、埼玉県生まれ。インテリアの専門学校在学中に、講師であった窪川勝哉氏に師事。2011年にスタイリストとして独立し、2022年に株式会社BOOTSYORKを設立。広告・メディアでのスタイリングを中心に、住宅展示場や店舗ディスプレイなども手がけ、最近では自身の趣味であるアウトドアシーンでのスタイリングでも注目を浴びる。
- Instagram - @endo_sh14
プロップルームとして活躍する、地下1階の元・撮影スタジオ。
遠藤さんの家の間取りは? そう問われても、ちゃんと答えられる自信は正直ない。というのも、彼の家はとにかく不思議な構造をしている。家に上がる前からふたつの玄関に違和感を覚えていたのだが、地上1階と思っていたフロアは、屋内に入ると半地下に。吹き抜け構造の地下が建物全体の約半分を占めるという、“家”としては一風変わった佇まいなのである。
「以前住んでいた家も決して狭くはなかったんですけど、仕事柄、荷物が増え続け……。仕事が捗る、より快適な居住空間を探していた矢先、この中古物件に出会いました。この家の前オーナーはフォトグラファーで、地下は撮影スタジオとして使っていたようです」
約30平米の広さからなる地下は、<BOOTSYORK>としての新たな拠点に。引っ越しに生じた荷物量は、段ボールの数だけでも約120個。2トンショートのトラックで6往復という大規模な引っ越しが行われたようだが、そんな大荷物もすっぽりと飲み込む。
一方、2階から上が遠藤さんの居住スペース。地下同様、コンクリート打ち放し特有の無骨さがありながらも、木材を多用することで暖かみのある空間に。四方に窓が備え付けられているため日中は電気をつけずとも明るく、新鮮な空気が室内に流れ込む。
「頭をリフレッシュさせたいときは、このラウンジチェアに腰掛けてゆっくりとした時間を過ごしたり、外の空気を吸いたくなったらテラスに出たりも……」
仕事と暮らしをシームレスにする、職住一体の家づくりは既存設計を活かしたもの。もとは地上2階を境に完全分離化されていたが、空間を隔てる壁を一枚抜くことで建物をひと繋ぎに。先述した“ふたつの玄関”は、それぞれの専用玄関としての名残りで、今でこそ門扉を上がった先にあるメインの玄関ひとつでこと足りるが、地上1階の玄関は仕事での荷物搬入・搬出に役立っているという。
やりたいようにやって、結果どうなるか。家は“実験部屋”。
「ここはリビング兼、ちょっとしたデスクです。真ん中の階段を隔てた奥がダイニング&キッチンになっていて、寝室はここから上がった3階に。木の温もりが欲しくて、もともとタイルだったフロアを自分で剥がし、フローリングに張り替えてもらいました」
「“ソリ”をモチーフにしたユニークなルックスに惹かれ、廃盤になるギリギリのタイミングでオーダーしました(笑)。思った以上に座り心地が良く、ここ最近のお気に入りの家具です。一方、この<エイゾー(現・ナナオ)>のテレビは学生時代から使っているもの。下半分がスピーカーという、少しエッジの効いたデザインなんですけど、インテリアにすっと馴染んでくれるのでかれこれ20年は愛用しています」
アシスタント時代を含めると遠藤さんの業界歴は15年以上が経過している。あらゆる現場を経験し、手がけてきたスタイリングも数知れず。完全プライベート空間である自宅では、どんな基準でものを選び、どう空間へと落とし込んでいくのか。
「じつは家の中ではあまりルールを設けず、好き勝手やっています。やりたいようにやって結果どうなるか。頭をニュートラルな状態にして、ジャンル関係なく色々なものをミックス。”いいな”と思う組み合わせが見つかれば次の撮影に取り入れて、逆になんかヘンだなってときは、また置き方を変えてみて……。僕にとってここは住まいなんですけど、新たなアイデアを捻り出す、実験の場でもあって」
「もの選びにも、基準なんてありません。基本、直感任せ。実際に僕は衝動買いがめちゃくちゃ多く、<BOOTSYORK>という屋号はそんな自分の“物欲”の高さがひとつの由来になってます。ちなみに、“BOOT”は起動するっていう意味じゃないですか。欲を、起動する。スタイリストとして、人の物欲を刺激したい。そういうダブルミーニングにもなっています。ふざけた名前なんですけど(笑)」
衝動買いが多いという遠藤さん。なかでもつい手を伸ばしてしまうのが、山モチーフのアイテムなんだそう。
「山にめちゃくちゃ詳しいわけではないんですけど、やっぱり非日常感というか、眺めてるだけで現実逃避できるというか(笑)。家の中に、そんな癒し要素を散りばめたいんですよね」
愛車は、アウトドアな趣味とも好相性なオフローダー仕様。
インテリアスタイリストとしての主戦場はインドアだが、遠藤さんの趣味はキャンプにバス釣り、フライフィッシング、一時はサーフィンにハマるなどそのシーンとは真逆。一番歴の長いキャンプでいえば、15年はくだらないほどアウトドアに傾倒している。
「初キャンプは、社会人になって初めて参戦した野外フェスにて。当時はホームセンターなどでキャンプ道具を買い揃えたりと、即席な装備でのキャンプデビューではあったんですけど、自然の中をのんびりと過ごす、非日常な空間に魅了され……。キャンプにハマると、次はキャンプギアへの興味が沸々と」
「車に装着しているルーフトップテントは、オークションサイトで競り落とした<ポーラー>のもの。好きなブランドという点と、さらに日本に10幕も入ってない希少なモデルということもあり、大枚をはたいて落札しました(笑)」
アウトドアな足としても活躍する、遠藤さんの愛車は“砂漠のロールス・ロイス”とも呼ばれるプレミアムSUV、初代レンジローバー(1992年式)。走破性に優れたオフロード仕様に加え、V8ガソリンエンジンのパワートレインはアウトドアユーザーにとって頼りになる一台だ。
ずっと憧れだった、今しか乗れない手のかかる旧車。
「乗り始めて4年ほど。当時はまだ結婚しておらず、現在もそうなんですけど子供がいなかったので、より手が掛かるクルマに乗れるのはこのタイミングしかないなと。人生で一度は乗りたかったクルマだけに、大変さを承知で購入に至りました。ちなみに、この前に乗っていたのは日産・テラノ。サイズ感はほぼ同じですかね。趣味の荷物はもちろん、仕事でリースに回るときにもクルマには大量の荷物を載せるので、最低でもこのぐらいの大きさが必要なんです」
生産から30年以上が経過している遠藤さんの愛車。現行モデルに比べパーツが古い分、当然故障のリスクは高い。ちょっとした扱い方や運転の仕方によってもダメージを与えてしまう可能性だってある。実際に彼のクルマも「つい先日まで修理に出してて」と修理工場から戻ってきたばかり。
「アイドリング中にエンジンが落ちるようになっちゃって。それでいつもお世話になっている修理業者へ診せに行きました。すると、今度はディストリビューターがよくないと。ほかにも至るところに不調が見つかり、なんだかんだで1年ぐらいは工場で眠っていましたね。その間、車上泊をずっとできていなかったので、次の休みを利用してキャンプに出かけたいですね。ポーラーのルーフトップテント、カビてなきゃいいですけど(笑)」
パフォーマンスを重視した家選びに対して、「今しか乗れないもの」という気持ちの面を優先したクルマ選びは、一見矛盾しているかのように思えたのだが、インテリアにアクセントをつけるのと同様、手のかかるクルマは人生を豊かにするひとつのエッセンス。アナログな環境であえての手間を楽しむ、趣味のキャンプにも通ずるものがある。
- Photo/Ryosuke Yuasa
- Text/Chihiro Ito(GGGC)
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