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未知に触れて、感覚を磨く。既成概念に囚われない“変”な家。
CULTURE 2024.10.21

未知に触れて、感覚を磨く。既成概念に囚われない“変”な家。

たとえ素敵な作りの家だとしても、たとえ高価な家具を揃えていたとしても、洒落た家にすることは難しい。どこに、どんなモノを置くかが重要であるし、色使いも繊細な感覚が必要になる。ファッション誌にも度々取り上げられるリサイクルショップ「FUNagain(ファンアゲイン)」の店主である高島大輔さんは、家具の買い付けのみならず、個人宅のプロデュースも依頼されるほど、その審美眼に絶対の信頼を置かれている。そんな彼が現在住む家を通して、家づくりのヒントを探していく。

INFORMATION
高島 大輔(ショップオーナー)
高島 大輔(ショップオーナー)
たかしま・だいすけ|1978年生まれ、新潟県出身。大手セレクトショップで商品開発や店舗内装に携わったのち、2020年に東京・千駄木に家具と雑貨のリサイクルショップ「FUNagain」をオープン。土日だけのオープンながら、その2日間は関東一円から多くの人が押し寄せ、整理券が配られるほど。フリーランスのディレクターとして活動する妻の良子さんも、土曜日のみ一緒に店頭で接客を行っている。

「変な家」を探して欲しい。

効率や利便性が先に立ち、画一的な間取りの家が多い昨今。ウェブサイトで物件を眺めていてもドキドキすることは少なくなったけど、それでも、あるところにはある。高島さん夫婦が住む家もそのひとつだ。
ここに越してきたのは、いまから半年前。家を探す際のキーワードは「変な家」だった。テンプレ的な内装の家だけは避けたかったから「変な家」。そこから不動産屋さんを訪ねて3件の物件を内見し、この場所を引き当てた。

都内のマンションの一室、和室とサンルームのある100平米の2LDK。値段は相場と比べると驚くほど安い。

「築60年近くなので、外観はお世辞にもキレイとは言えないですけど、内装はめちゃくちゃいい。古くて味のある変な場所を探してたぼくらにとっては、最適の物件でした」

この広い空間には、夫婦のこだわりがたくさん詰まっている。バラバラな個性のものがうまく調和している空間は、いかにして作られているのかを見ていきたい。

値段は高くない。でも一風変わってる家具。

高島さんは家具と雑貨選びのプロだ。毎週、古物商の免許がなければ入場できないマーケットへ足を運び「FUNagain」の仕入れを行っている。あらゆる事情で手放された家具や雑貨が無造作に並ぶなか、売れるモノを買い付けるためには、たしかな目利きが必要になる。

そんな高島さんの、個人宅。玄関をくぐると、まずは広々としたリビングが出迎えてくれる。高層階にあり見晴らしも素晴らしい。配置されている家具や雑貨は、生産された年代も違えば、国も違うし、色や材質も異なる。それなのに統一感があって、まるでギャラリーのように洗練されている。

「置いてある家具に関しては、これっていうジャンルは特に決めていないです。生産されている国も、日本があったり、ヨーロッパや北欧など様々です。ただ、すべてに共通しているのは値段が高くないこと。一部のお金持ちの人のために作られたものじゃなくて、大衆的なものが好きなんですよね。そして、家と同じで変なものにどうしても惹かれてしまうんです」

一番多くの時間を過ごすリビングに置かれている椅子は、60年代〜80年代のイタリア製。テーブルは80年代に作られた「天童木工」のヴィンテージ品。どれもデザインが効いていながら、言葉通り、値段はそう高くない。
いまはピエール・ジャンヌレをはじめとしたヴィンテージの家具が高騰を続けているが、高島さんは「そういうのには、まったく興味がない」と言い切る。「FUNagain」のセレクトと同様、一般の人たちが興味を示さないものに、いかに価値を見出すかで勝負をしているのだ。

リビングは、妻・良子さんの趣味である器のショーケースと観葉植物を間仕切りにして、2つの空間で仕切られている。奥の空間には、もうひとつのテーブルセットが設けられていて、フィンランドのデザイナーであるウリヨ・クッカプーロというデザイナーの家具が配置してある。ここは良子さんがリモートワークをしたり、読書をする場所として使用中だ。

「変なモノが好きと伝えましたけど、ポストモダンの家具は変なモノが多いんですよ。その時代の家具は、遊び心のあるデザインだったり、ポップな色使いがとても素敵なんです」

ミッドセンチュリーにはじまり、スペースエイジがやってきて、80年代に興隆したポストモダン。この時代の家具は、明確に機能よりもデザイン重視だった。約10年と続いたムーブメントだったが、いまもなお、多くの人たちを惹きつけている。

リビングと地続きになっている和室は、この家を"変”にたらしめている場所だ。当初はどう使うか頭を悩ませたというが、音楽部屋として使用している。
壁面いっぱいに並んでいるレコードは高島さんの趣味。ジャズからヒップホップ、四つ打ちまで幅広いジャンルのレコードが約1000枚ほど収納されている。最近購入したという80年代の「JBL」のスピーカーから出る音が、家全体を柔らかく包む。

「自分はだまっていると、すぐモノで溢れさせてしまうんです。でも、和室は余白を楽しむスペース。いわゆる侘び寂びのカルチャーなので、あえてものは置かないように引き算のレイアウトにしました」

和室とレコードなんて、相反するもののように感じるが、そこを組み合わせてしまうあたりがさすがプロ。照明やソファも、和の空間にしっかり溶け合っている。既成概念やロジックに囚われないことで、ならではの空間に仕上げている。

その横にはサンルームがあり、ここが夫妻の寝室になっている。本来であれば室内干しなどで使うことが多いスペースだが、和室を有効活用したかったこともありベッドを設置。障子をフィルターにして入ってくる陽の光は、やわらかで心地よく、おだやかに目を覚まさせてくれる。

キッチンは独特の形をしていて、ウッドとタイルというアメリカンな見た目の中に、ポツンとカウンターテーブルが配置されている。また、上部の棚には器のほか、2人が好きな本を収納。いずれはリビングに大きな本棚を置く予定で、それまではここが定位置だという。
ほかにも、キッチンにはまるでショーケースのような棚がある。リビングから見るとガラス一枚で隔てられ、透けて見える。ここに飾られているのは、器の収集が趣味であった良子さんの祖母から受け継いだ品々。人間国宝が作った器も展示、ではなく収納されている。

キッチンやサンルームは、以前に住んでいた人が大幅にリノベーションしたもの。きっと使い勝手を追求するなら、浮島になったようなカウンターは不要だろうし、サンルームだって別のスペースに充てたほうが住み心地はよくなるかもしれない。でも、2人が求めたのは「変な家」。無駄とも思える装飾や空間が、心をときめかせてくれるポイントだったのだ。

知らないものを買うことで見識は広がっていく。

とにかく、いろんなものが配置されている高島さんの家。うまくまとめられているポイントはどんなところにあるのだろう。

「意識しているのは、それぞれをグループで分けてあげることと、グループの距離を取ってあげること。あとは、満遍なく置くことが一番ダメだと思っていて、ダラダラと配置しない。ぎゅっとした塊を作ってあげるというのも意識していますね」

リビングにある棚を見てもわかる通り、それぞれ適度な距離感を保ちながら、カラーやテイストで分類されている。黄色い棚のそばには黄色いものを、茶色のゾーンには茶色のものが、まとまって置かれている。

この空間は青。ソファとテーブルだけでなく、壁面にも青のアートを飾ることで、より空間全体に統一感が生まれてくる。

「家のインテリアを購入するとなったとき、頭の中では、いま持ってるものを描きながら買うようにしています。あの空間と同じ仲間なのか、どうなのか」

その考え方は、服選びにも近いという。どの色をメインにして、さし色はどうするか。素材はどうか。空間となったら難しく考えがちになるが、そう考えると簡単に思えてくる。

「しかも、服の感覚で家具を選んであげたほうが、ありきたりにならないんじゃないかなと思いますね。いわゆる『ショールームっぽさ』から抜け出せますから。一方で衝動買いすることもめちゃくちゃ多いんです。それで何度も失敗してきたし、いまだに失敗もします(笑)。たくさん失敗することで、感覚は磨かれていくんだと思います」

また、先述したように、最近は家具の世界もブランド志向がかなり強まってきている。いつ、どこで、誰が作ったかが重要視されることも少なくない。

「そうした、うんちく先行でモノを買うのも全然いいと思うんですけど、それだと、視野が広がらないと思っていて。自分がこれまで見聞きしたモノしか目に入ってこなくなるんですよね。いかに知らないモノに触手を伸ばすかで、知識の幅が広がるはずなので。全然見たことないモノを購入して、なんなんだろうと思って調べて、知識と感覚が蓄積されていく。結果として、いいものを安く買えることに繋がるんですよね」

一朝一夕に素敵な家にすることは難しいけど、高島さんが営む「FUNagain」へ行けば、少しの近道になるかもしれない。この家にあるような、良質で、高くない家具がそこには並んでいる。有名デザイナーの家具ではなく、味があって変なものがきっと見つかるはず。

  • Photo/Kosei Nozaki
  • Text/Keisuke Kimura
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