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服だらけの異空間広がる、アパレルディレクターの住まいの“真ん中”。
FASHION 2024.11.05

服だらけの異空間広がる、アパレルディレクターの住まいの“真ん中”。

アメリカ生まれのトラディショナルブランドで、ディレクター、企画、バイヤーなど、いくつもの顔を持つ黒野智也さん。モットーは、「服をつくるところから、届けるまで」。そして、「たとえば空間づくりも、服の仕事と切っては切れないんです」とよどみないだけに、家づくりも気になった。リノベーションを経て2023年3月に完成した住まいには、その文字通り“真ん中”に洋服がある。それも、ハンガーに吊るしたものだけで、じつに600本分だ。

INFORMATION
黒野 智也(アパレル企業勤務)
黒野 智也(アパレル企業勤務)
くろの・ともや|妻の真那さんとふたりの娘さんとの4人暮らし。企画職を中心に、アメカジのセレクトショップ、レディースアパレル、スポーツアパレルなど、多岐にわたる経歴を持つ。現在は、アメリカントラッドの魅力を次世代へ伝えるコンセプトショップ「J.PRESS&SON’S AOYAMA」のディレクションやバイイング、企画、PRなどを包括する。最近はSNSやYouTubeにも注力し、撮影機材などにもこだわりはじめているところ。真那さんも、アパレル業界を経て、現在はヨーロッパの雑貨を扱う商社で働く。

家の“真ん中”に、“愛”がある。

高校時代にファッションに目覚めてこのかた、洋服一筋、好きにまっしぐらに進んできた黒野さん。
それだけに、「衣装部屋を、住まいの“真ん中”になるよう配置しました」と聞いただけでは、さほど驚きはない。

ただ、案内してくれたさきのその部屋へひとたび足を踏み入れると、「ここまでとは!」と冷静ではいられない。

ジャケット、スラックス、ジーンズ、シャツ、革靴、ニット、Tシャツ、バッグ、キャップ、スウェット、ピンズ、タイ……。ぐるりと四方を囲う、服、服、服!

さっきまで家のなかにいたはずが、時空がゆがんでアパレルショップに迷い込んでしまったような錯覚に陥る……。「服バカですみません……」と言わんばかりに、黒野さんはちょっとはにかみ、「家に帰っても、お店で選ぶみたいに服を選びたくて」と、こともなげに続ける。

「棚やハンガーラックは、工務店さんにお願いして設計してもらったんです。棚もラックも同じ幅にしてあるので、気分や物量に応じて、入れ替えてレイアウトすることもできるようになっています」

ハンガーで吊るしてある洋服だけでも、ゆうに600本分あるという。それでも極めて整然と見えるのは、カテゴリー別にきっちり区画分けされ、なにより、どの服も丁寧に丁寧に収納されているから。

「『選び取りやすい収納』は意識しています。デニムやサックスのシャツはとくに好きなアイテムですが、それらは色がグラデーションになるよう並べていたり」

その几帳面さは、要するに愛だ。「在宅ワークのときも、ここで服を見ながらなにかを考えたり、思いついたり。だから仕事部屋でもあるし、つい長居しちゃうんです」と、笑顔がこぼれた。

こだわり抜くより、たおやなかなMIX感を。

現在はアメリカントラッドなブランドに籍をおく黒野さんだが、そこにいたるまで、レディースアパレルやスポーツアパレルなど、紆余曲折を経てきた。かたや、個人的な洋服の趣味も、刻々と変化してきたという。

「高校時代はアメカジも好きだったし、ゴリゴリのBボーイみたいな格好をしていたときもあります。専門学校時代には、マルジェラやギャルソンなどのモードなブランドや世界観にも影響を受けましたね。いまもいろんなジャンルが気になるし、アメトラも好きですが、そこにあえて艶っぽいものを合わせたりと、“いわゆるじゃない”スタイルが好きなんです」

年齢を重ねると、自然と洗練されていきがち。ファッション誌を開いても、「一生モノ」や「コレに辿り着いた」といったクリシェや美学をたびたび目にする。

そんななか黒野さんは、「古着も大好きです。でも、それだけが自分じゃないし、『絶対に古着』じゃなくてもいいというか」と、どんなに好きでも、固執しない。そのたおやかさは、そしてそのまま、家づくりにも。

ベースの壁紙は「トラッドカラー」をイメージしたというグリーンで、かたや、剥き出しになったダクトなどにはインダストリアルなムードが漂う。かと思えば、ダークブラウン系の木材を随所にあしらい、ぬくもりも忘れない。家具もしかりで、部屋に合わせて修繕を加えた100年前のヴィンテージもあれば、その目と鼻のさきに、フランスの新鋭ブランドの照明が掛かっていたりする。

「自分たちがいいなと思うものを、ただ集めただけなんです」と、あっけらかんと話しながら、部屋の隅々にわけへだてない視線をおくる。100年前の家具だろうと、現代作家のものだろうと、構わない。そのこだわらなさが気持ちいい。

ガラス越しの生活動線で、ワークとライフを行き来する。

「服をつくって終わりじゃなく、きちんと届ける。そこに興味があって」と、とりわけ最近は、SNSやYouTubeでの発信やコンテンツづくりに力を注ぐ黒野さん。住まいづくりを考えはじめたのも、そうした撮影を自宅ですることが多くなってきたおりだったため、それが内装のテーマにもなった。

トラッドカラーの壁紙もしかり、フランスの古民家で使われていたというヴィンテージの扉もしかり、ショップ顔負けの衣装部屋もしかり。いたるところに、思わず切り取りたくなるような一角がある。

一方、リビングダイニングに入れ子状になった作業部屋も、在宅ワークを前提にデザインしたもの。壁で仕切って“部屋”にせず、あえてガラス窓を選ぶことで、キッチンともリビングともつかず離れずの距離感。

「家では、集中が必要な仕事よりも単純作業が多いですし、衣装部屋に何かを確認しにいくことも多いので、このくらいがちょうどよくて。嫁も、料理のあいまに趣味のミシンや仕事をすることが多いので、僕らは大体いつも、キッチンと作業部屋、リビングと作業部屋、そのあいだを行き来して過ごしています」

“住まいの完成”を積み重ねていく。

「家具選びも含めて、まだまだ完成とは思っていなくて、むしろ10年、20年かけて育てていきたいと思っています」

そうおだやかに未来へ目くばせする黒野さんの言葉に頷きながらも、一方で、腑に落ちないところもあった。全身着れば毎日完成する洋服と違い、いつ完成するともわからない住まいに対して、もどかしさはないのだろうか?

「そういう意味では、人生のどの時点でも、自分のコーディネートも服への想いも、『いまが最高』と思ってきました。ときどきで気持ちや好きなものが変わっても、いつも満足はしているというか。だから住まいも、“その時点での完成”をつねにアップデートしていくような感覚かもしれません」

  • Photo/Hiroyuki Takenouchi
  • Text/Masahiro Kosaka
LL MAGAZINE