- コムアイ(アーティスト)
- こむあい|1992年、神奈川県出身。歌手・アーティスト。知り合いのホームパーティに行ったことがきっかけで、水曜日のカンパネラ主演・歌唱として活動を開始。2021年9月6日にグループを脱退し、現在は個人で活動。ドラマ『雨の日』(NHK)で主演を務めるなど、役者やナレーターなど幅広く活躍している。
- Instagram - @kom_i_jp
<コムアイ→河野未彩>古典的名作にSF的解釈を取り入れた『竹取物語』。
コムアイさんが、山に登ったりクラブで踊ったりと一緒にいろんな場所に遊びに出かける親しい友人、視覚ディレクター/グラフィックアーティストの河野未彩さんに贈る映画は、1987年公開の『竹取物語』。
『ビルマの竪琴』『野火』、また『東京オリンピック』では記録映画を手掛けた市川崑監督作品だ。
ある夜、幼い娘・加耶を亡くした夫婦が強い光と轟音に驚き外に出ると、近くの山が焼け野原になっていた。翌日、加耶の墓を確認しようと竹取の造が竹林を訪れると、墓のそばにあった物体から墓に向かって光線が走り、その物体の中にいた赤子がみるみる加耶の生き写しのように成長していく。ただ彼女の目は青く、謎の水晶を手から離さないことは違っていた……。
かぐや姫が竹から生まれたのではなく宇宙からやってきた、彼女を迎えに来るのが宇宙船など、歴史的名作にSF的解釈を取り入れて表現し、公開から30年以上経った今もその斬新さに驚かされる作品だ。
作中でコムアイさんが印象に残ったのは、「ラストのかぐや姫が月に帰っていくシーン」。
「お迎えに来たのは視界を埋め尽くすほどの巨大なUFO!スターウォーズもびっくりな、きらびやかで品のある、光に包まれた宇宙船」と、当時の最新SFXを駆使した表現に心を打たれたという。
また、「姫やそれを見守る俗世の人々の心理描写もゆったりと荘厳で、偉大なものに抱かれる絶対的な安心感を感じる」と話すように、大判の大納言に心を寄せながらも月に帰らなければならない加耶の思い、加耶を実の娘として愛してきた夫婦が彼女を見送る表情も見どころだ。
私がこの世でもっとも好きなUFOの描写がされている作品を観てほしい!
「UFOが大好きなみどりちゃんには、私が今まで見てきた中でもお気に入りのUFOの描写がされているこの『竹取物語』をぜひ観てほしい! かぐや姫=宇宙人のような人間の力の及ばないものに対する畏れが描かれていて、かつ、それが科学でコントロールできない不安ではなく、むしろ自分たちが果てのない宇宙に抱かれる小さな存在であることを知って、安心感に包まれる。そんな感覚で終わらせてくれるSF映画、なかなかないんじゃないかな。SFと昔話という組み合わせで、知っている話の筋なのに奥深いストーリーに仕立てられていくのが市川崑らしい作品です。ネタバレしちゃってごめんよ!」
「みどりちゃんとはクリエーションを一緒にすることもあれば、プライベートで遊ぶことも。これも交換日記みたいな企画だけど、実際にみどりちゃんともうひとりの友人とで交換日記をしてるんだよね。社会に出てからはお互いの字を見る機会が減る気がするから、そこで字を見ると、裸を覗いたようでドキッとします。みどりちゃんは思っていたよりもギャルな字でした(笑)。」
コムアイさんに選んでもらった「竹取物語」。UFO好きだという河野さんに実際に観てもらいました。
「慣れ親しんだ物語だからこそ、より映像美に見入ることができた」(河野 未彩)
「単刀直入にいうと、とっても美しい映像でした! ソフトフォーカスで発光した人間、固定カメラの構図、CG、すだれのモアレ、暖簾や着物の柄、全編を通してグラフィカルな世界観。そして加耶と明野が美しい……。おすすめしてくれたクライマックス、ハスの花のようなピカピカUFOがそれまでの美術と密度的なコントラストがあって圧倒的だった。なるほど、コムちゃんも好きそう! どこか今年の元旦に一緒に行ったスゴイ建築を思い出しました」
- 河野 未彩(視覚ディレクター/グラフィックアーティスト)
- かわの・みどり|多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業。音楽や美術に漂う宇宙観に強く惹かれ、2000年代半ばから創作活動を始める。グラフィックデザイン/映像/プロダクト/空間演出など、数多くの色彩快楽的な作品を手がける。2019年には作品集「GASBOOK 34 MIDORI KAWANO」を刊行。その翌年には影を彩る照明「RGB_Light」を開発し、Panasonic関連企業から製品化も実現した。
- Instagram - @midori_kawano
<河野 未彩→太田 光海>宮古諸島の神唄を辿る『スケッチ・オブ・ミャーク』。
河野さんから映像作家/文化人類学者・太田光海さんに贈るのは、ドキュメンタリー映画「スケッチ・オブ・ミャーク」。沖縄の宮古諸島には沖縄民謡とは異なる、島での厳しい暮らしや神への信仰から生まれ、口承で歌い継がれてきた「アーグ」と「神歌」という知られざる唄がある。音楽家の久保田誠がその唄に出会い魅せられたことにきっかけに、大西功一監督がその記憶と島の生活を辿り製作した。
作中では島の暮らしや歌い継いできた人々の話、そしてその島民たちが東京のステージで唄を披露する姿を交互に映し出す。河野さんは、「おばあさんの言葉が自然と唄になっていくときの、す〜っと神の領域を行き来している感じや、ホームである島では力強く唄っていたかと思うと大きなステージでは失敗して泣いてしまう少年。その心の表れというか、緊張とは逆の状態で神に捧げる唄の本質や神との距離感が垣間見れて描かれているようで印象的でした。近くて遠い。強くてはかない」と語る。
また、衝撃的でずっと覚えているという「丸めた紙を使っていわゆるくじびきのような方法で神司を決める」場面も、人々の暮らしと唄、神への信仰が一体だったことを表しているのだろう。
先日初めて沖縄に行った光海氏に、 南のムードを感じる作品をセレクト。
「『スケッチ・オブ・ミャーク』は音楽家の目線で撮られたドキュメンタリーでフォーカスしているのは神唄。光海氏の作品『カナルタ〜螺旋状の夢〜』でもセバスチャンが唄う印象的なシーンがあったけど、このどこか遠くへ連れて行かれそうな民族的な音の調べの正体って一体なんなのだろう〜?
他に『イザイホウ』『Wild Wild Country』『Sun Ra : A Joyful Noise』『Timothy Leary's Dead』などとも迷ったのですが、ちょうど光海氏が先日初めて沖縄に行ったとのことで、今、南のムードがリアルかなと思い、この作品を選びました」
「上の写真は、光海氏とコムちゃんで集まったときのもの。光海氏とは2021年に熱海のアートレジデンスで知り合い、友達になりましたが、色々なことに知的好奇心が旺盛でエネルギッシュで、何より言語感覚が鋭くてびっくりしました。海外が長いということで海外からの目線で日本を見られるし、その独自の感性や目線でのビビッドな言語や映像での表現をこれからも楽しみにしています!」
先日沖縄に初上陸したばかりという映像作家の太田さん。島の暮らしと唄を実直に描いた作品『スケッチ・オブ・ミャーク』を観て感じたこととは?
「僕のタイムリーなムードを見事に掴んでくれたセンスに脱帽」(太田 光海)
「宮古島の古くからの記憶や唄をその身に宿す方々の、凛とした顔つきやあふれ出る声に愚直にこだわる作風が印象的でした。アーティスティックな映像表現である前に人々の記録なんだという気骨と覚悟を感じつつ、途中で差し込まれる古い写真群や、歴史には記されないかもしれない歌い手たちの確かな痕跡に胸を打たれます。11歳の子供が泣きながら舞台に立ち、必死に神唄を歌う姿を見て、ただ文化が消え去るだけではない、土地の持つ息吹のようなものも感じました」
- 太田 光海(映像作家・文化人類学者)
- おおた・あきみ|1989年生まれ。映像作家・文化人類学者。パリ社会科学高等研究院で人類学的調査を行いながら共同通信パリ支局でカメラマン兼記者として活動。その後、マンチェスター大学で文化人類学とドキュメンタリー映画を掛け合わせた先端手法を学ぶ。初監督作品『カナルタ 螺旋状の夢』が全国で公開中。
- Instagram - @akimiota
“映画ギフト”前編では、その人の好みや近況などからセレクトされた作品が登場しました。後半の数珠つなぎは太田光海さんからスタート。果たしてどんな作品が登場するのでしょうか?
- Illust/Hitoshi Kuroki
- Text/Sonoko Tokairin
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