- 太田 光海(映像作家・文化人類学者)
- おおた・あきみ|1989年生まれ。映像作家・文化人類学者。パリ社会科学高等研究院で人類学的調査を行いながら共同通信パリ支局でカメラマン兼記者として活動。その後、マンチェスター大学で文化人類学とドキュメンタリー映画を掛け合わせた先端手法を学ぶ。初監督作品『カナルタ 螺旋状の夢』が全国で公開中。
- Instagram - @akimiota
<太田 光海→岡原 功祐>インド・バラナシの街を映し出す『Forest of Bliss』
太田さんが20代の頃、その作品を見て衝撃を受けたという写真家の岡原功祐さんへ贈る映画は「Forest of Bliss」。インド・バラナシの街とそこに住む人々を描く、ロバート・ガードナーによるドキュメンタリー作品だ。
解説や字幕を入れずに人々の仕事や祈り、弔いを映し出すこの作品について、「ガードナーの映像的アプローチ全体からとにかく衝撃を受けました」と語る太田さん。見進める中で「土地に流れる時間や空間の重力と自分の精神が一体化していくような不思議な感覚」を覚え、かつ「派手な演出や動きがなくても、世界は常に流動の中にあり、それ自体が美しいのだと強烈に学んだ」という。
特に印象に残っているのは、「川辺に固定されたカメラを通して、ボートが画面に入ってくるシーン」。初めて見た際、水辺の美しさとボートのゆったりとしたリズムに流動を感じたそう。そしてこの作品を通して見える世界は奇をてらうことなく誠実で、ときに残酷。観た者にバラナシという土地に人々が確かに存在することを実感させる。太田さんはそこから自身の考え方に、大きな影響をもらったのだとか。
岡原さんの写真と『Forest of Bliss』の潔さが妙にシンクロした
「岡原さんは写真家として自らの肉体的な感覚や、カメラと過ごし日々触れる事物にまで鋭敏にこだわって、対象と向き合っていると思います。そんなストイックでありながら、奥底に優しさが見え隠れする岡原さんの写真と、『Forest of Bliss』の潔さが妙に僕の中でシンクロしました。旅やドキュメンタリーといった僕と岡原さんを結びつける共通項も、この作品が思い浮かんだ大きな理由かもしれません。イメージとは裏腹に(?)、エモい恋愛ものなどが好みだと聞いたりもしますが、気に入ってもらえたら嬉しいです!」
「岡原さんとは、お互いパリに住んでいた2013年に出会いました。きっかけは当時ドキュメンタリー写真に熱中していた僕が岡原さんの作品を観て衝撃を受け、連絡をしたこと。その頃からすでに岡原さんは世界的に大活躍していましたが、未熟者の僕を何かと可愛がってくれました。岡原さんと直に関わりながらその姿を見ていた経験は、僕の人生観を根本的に変えたと言っても過言ではありません。これからもさらなるご活躍を楽しみにしています!」
太田さんからの映画ギフト『Forest of Bliss』を観た岡原さんから感想をいただきました。
ドキュメンタリー映画というより、記録映画という意味合いの強さを感じた(岡原 功祐)
「ドキュメンタリー映画というと、撮りたい絵やストーリーが誇張されること、または作り手のエゴを感じる作品が多い中で、そこに流れるリアルな時間に寄り添うこの作品に好感を持ちました。何も起きない瞬間が積み重なった映像であると同時に、バラナシの生(死)が克明に描かれている、美しくも生々しい世界に引き込まれました。太田さんの映画『カナルタ』ともシンクロし、少なからず影響を受けたのではと感じました」
- 岡原 功祐(写真家)
- おかはら・こうすけ|1980年、東京都出身。人の居場所を主なテーマに撮影を続けている写真家。写真のみを使った映像作品制作も行い、「blue affair」は世界最大の短編映画祭であるクレルモン・フェラン国際短編映画祭のコンペ部門オフィシャルセレクションに選出された。また同作にて2022年度・世界報道写真賞を受賞。
- Instagram - @kosukeokahara
<岡原 功祐→小山 世莉>スチールとナレーションで描く『ラ・ジュテ』
岡原さんが「刺激を受ける存在」だという友人、モデルの小山世莉さんへ贈るのは、1962年公開の短編映画『ラ・ジュテ』。監督のクリス・マルケルはこの作品で国際的な評価を得て、押井守氏など世界中のクリエイターに影響を与えた。
舞台は第三次世界大戦後。廃墟と化したパリで放射線から逃れるため地下で暮らす科学者たちは、過去と未来に救済を求め、奴隷たちを実験台にタイムトラベルを試みるが、そのほとんどは錯乱するか、死亡するか。しかし少年期の記憶に取り憑かれていたある男だけは、その実験に耐えることができた。時を超える実験の中で男はひとりの女性に出会い、やがて惹かれていく……。
岡原さんが「最初から最後まで衝撃の連続です」と語るように、この作品を見て驚かされるのは、写真とナレーションと音楽のみで描かれていることだろう。流れる映像ではなく静止画を用いるこの技法は「フォトロマン」と呼ばれ、「すでに100回以上はこの映画を見ました」と話すほど岡原さんを魅了した。
静止画・動画・制作と世界線を飛び越える姿とこの作品が重なった。
「モデルとして写真の世界、俳優として映像の世界、そして昨今は自らも映画を制作されようとしている小山さんの、静止画・動画・制作と世界線を飛び越える姿に、時間や空間を行き来するこの作品が頭に浮かびました」
「小山さんと出会ったのは札幌国際短編映画祭。大手の事務所から独立したばかりというお話を伺い、パリの大きな写真事務所を辞めてひとりで活動していこうと決めた自分の姿と重なりました。演技の世界でもっと勝負していこうと目の奥でメラメラと炎を燃やしている小山さんを次はどの映像の中で見られるのか、または自身が作る映像を見られるのか、今から楽しみです」
岡原さんがその魅力にハマってしまったという『ラ・ジュテ』を、小山さんに実際に観ていただきました。
「岡原監督らしいセレクトで、とても腑に落ちています」(小山 世莉)
「導かれるように写真という点と点の間の線を頭の中で映像化し、体感している私がいました。気がつくと作品の世界観に入り込んでいましたね。一方、音楽とナレーションはウネウネと曲線を描いて流れ続け、右脳と左脳を同時に使っているかのような不思議な感覚を覚えました。時間に穴を空けるというストーリーどおり、ひとコマだけ映像が流れたシーンは私の『ラ・ジュテ』の世界観に穴を空け、完全に空間を歪ませました。すばらしい作品を教えてくださり、ありがとうございます」
- 小山 世莉(モデル・女優)
- こやま・せり|1986年、北海道出身。モデル・俳優。2020年に事務所から独立し、現在はフリーランスとして活動中。YouTubeでワークショップ映像をアップしたり、札幌国際短編映画祭ではMCを務めるなど、活躍の幅を広げている。
- Instagram - @seri_0811_official
本企画ではコムアイさんから河野さんへ、そして河野さんから…と数珠つなぎに、おすすめしたい映画を教えていただきました。自宅で気軽に映画を楽しめるようになった今、新しいおうち映画の楽しみ方として、親しい友人へ「映画ギフト」を贈るのはどうでしょうか?
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