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土間リビングを暮らしの真ん中に据えた、都心のペントハウス生活。
OUTDOOR 2023.02.17

土間リビングを暮らしの真ん中に据えた、都心のペントハウス生活。

玄関の先にありながら、土足で踏み入ることのできる土間。そこはインドアとアウトドアの要素を兼ね備え、収納はもちろん、憩いの場所としても機能する。では、実際に土間のある暮らしを送る人は、その空間をいかに活用しているのか。今回はペントハウスをリノベーションして暮らすクリストファーさんの住まいを訪れた。

INFORMATION
オステアー・クリストファーさん(sunchream代表)
オステアー・クリストファーさん(sunchream代表)
1990年、東京都出身。フランス人の父と日本人の母の間に生まれ、中学を卒業後に渡仏。フランスの高校を卒業後、オランダの大学などで学んだ後に帰国し、現在はファッションブランド「アニエスベー」のコンテンツクリエイション、店舗デザインディレクションやギャラリーの立ち上げなどを担った。現在自社エージェンシーを立ち上げ、ファッションブランドのエントリープロデュースや不動産投資を行う。

インダストリアルな部屋を目指して、元オフィスをフルリノベ。

ブランドコンサルティングや空間デザインなど、多方面で活躍するクリストファーさんが暮らすのは、都心のヴィンテージマンション。ご両親が暮らす実家の隣の物件がたまたま空き、そこが改修可能な賃貸物件だったことで24歳の時に移り住むことを決めた。ただ、そこはもともとオフィスとして使用されていた場所。そこで大胆なフルリノベーションを実行する。

「もともとインテリアをいじったりDIYをするのが好きでした。だから知り合いのインテリア事務所の方々と改修できたら面白そうだなと思ったんです。ただ、オフィスを住居に変えるのはやはり大変でしたね(笑)。今いるリビングの部分は合板の床を全部剥いで、コンクリートをむき出しにした上で塗装している状態なんです。壁も天井も同様に、一度全部剥がして無機質な空間に仕上げました」

武骨でヴィンテージ感のある工業的な部屋に仕上げたのには、インダストリアルな部屋への憧れがあったからだという。ヨーロッパで生活していたことのあるクリストファーさんは、工場や倉庫が建ち並ぶ工業地区にアーティストが移り住み、リノベーションして生活している様子を目の当たりにしていた。住居ではないところを住居に改修して暮らす発想はそこに由来する。

フラットなコンクリート空間は土間としても機能する。

コンクリートむき出しの壁、装飾や仕切りのない広い空間など、インダストリアルな空間は近年日本でも「ブルックリンスタイル」などと呼ばれ注目されている。まるで工場をそのまま使うようなイメージでレイアウトされた空間は、とてもシンプル。しかしその分、配置する家具のセンスでいかようにも見え方が変化するのも魅力だ。このリビングで特に目を引くのが、黄色いサーフボード。

「アウトドアなど趣味は多いほうなのですが、今一番好きなのはサーフィン。天井の余計な部分を取っ払って部屋に高さができたので、ロングボードもそのままリビングに飾れるのはいいですね。普通はガレージにしまうものなんでしょうけど、インテリアに馴染めば良いと思っています。それにここは床がコンクリートなので、汚れも気にならない。フィンを交換したり、ワックスをかけたり、メンテナンスもここでできてしまいます」

玄関とキッチンを有するリビングルームを、すべてコンクリート素材でつなげたクリストファーさんの部屋。ゲストが来るときは日本仕様に合わせて玄関で靴を脱ぐが、本人はそれもあまり気にしていない。広々としたこの1LDKは一種の広い土間としての役割を持ち、いろんな作業を気兼ねなくできる場所となっている。以前は自転車もそのまま入れ込んでいたそう。

「この空間は部屋としての感覚はあまりないんですよね。カーペットや家具を置いてリビングのように生活してますが、すべてをどかせばアートスタジオとしても利用できる。たとえば床の上で塗装なんかしても全然気にならないです。それはコンクリートの強みかなと思っています。あと、掃除が楽なのもいいですね。ホコリがあったら掃除ワイパーですぐですし、水洗いもガシガシできます」

たしかにコンクリートの床なら水拭きだけでなく、油汚れも洗剤を使いながら洗い流すことができる。外で使った趣味のアイテムをそのまま持ち込んでもいいし、さらに作業まで可能となる。それが可能なのは、玄関からのスペースをすべてフラットにし、土間のように外と内の境界をあいまいに仕上げたからこそだ。

ワンルームの空間をゆるやかに区切るテクニック。

大きなワンルームといえども、プライベートスペースでもあるベッドルームは空間の連続性に変化をつけている。リビング部分よりも床を一段高くし、素材もパイル材をつかうことで居心地や見た目の印象を変えることに成功。さらに特注のスチールフェンスで、スペースをゆるやかに区切れるように仕上げた。

ベッドは窓の高さに合わせて足を取っている。チェストなど窓側にある家具の高さをすべて揃えているのも、リビングから視界に入ったときに雑多に見えないための工夫だ。フェンスは稼働式だが、ゲストが来る際はベッドが丸見えにならないように左側に寄せているそう。そこに服などをかければさらに目隠しになる。
「なるべく雑然とならないよう意識しています。生活感が出ないようにスーツケースやコンテナも収納として使っているんです」とクリストファーさん。

特にお気に入りなのは、ガラスで仕切られた水回り。オフィス時代はトイレスペースだったところをすべて取っ払い、左にバスルーム、中央に洗面所、右にトイレという3点ユニットに配置し直したのだそう。住居部分の天井は白くペイントされているが、ここだけは配管がむき出しのコンクリートのまま。手つかずの状態を“味”として残している。

「水回りの配管を短くして工事費を安く抑えたいという考えでキッチンの位置を決めたのですが、すべてをコンパクトにまとめてよかったなと思っています。キッチンと風呂場とリビングを分けようとすると、どこかに壁が必要なんですよね。僕はあくまで開けた大きな空間で過ごすのが理想だったので、今の配置はベストだと思っています」

傷や汚れ、経年劣化も“味”として楽しめる暮らし。

抜けや光を遮ることなく、土間のようなリビングと寝室、水回りをゆるやかに区切ったクリストファーさんの部屋。ちょっと非日常感があるつくりに対して、自身も「インテリアのディレクションを勉強した今だったら、こんな部屋にはしないと思います(笑)」と振り返る。しかし、若さゆえに生まれたこの空間ならではの良さがあるのは間違いない。

「リビングの床、よく見ると色ムラだらけなんですよね。でもそれも気に入っています」という話もしてくれた。ほかにも壁の塗り残しやちょっとした染みの場所なども教えてくれたが、その口調からは一種の愛情が感じられる。きっとクリストファーさんにとっては、どんな失敗も経年劣化も、すべてが“味”なのだ。最後にこの部屋の一番の魅力に触れられた気がした。

  • Photo/Hisanori Suzuki
  • Text/Daisuke Watanuki
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