息子と父の二人三脚。クリエイターの感性を育む住まい。
福岡ローカルを中心に、メディアの注目を浴びる小学生がいる。ハイパーメディアクリエイターとして活動する成田才紋くんだ。才紋くんの制作拠点は、父親である博昭さんの住まい。制作スタジオとして機能しうるだけの広さを条件に博昭さんが探し当てた物件は“元・銀行”。その場所で才紋くんはいかに才能を開花させているのか、覗きに伺った。
- 成田 才紋くん/博昭さん
- なりた・さいもん/ひろあき|福岡県に暮らすクリエイター親子。息子の才紋くんは弱冠12歳にしてハイパーメディアクリエイターとして活躍。博昭さんはグラノーラとジンジャーコーディアルの店「FRUCTUS」のファウンダーを務めるかたわら、インテリア家具の輸入代理店を営む。
- Instagram - @simonnarita0804
本格的な活動の始まりは、父からの制作オファー。
福岡に暮らす才紋くんは12歳。小学6年生にしてハイパーメディアクリエイターとして脚光を浴びている。構成も撮影も編集もひとりでこなし、これまでに150以上の作品を制作。InstagramやYouTubeを中心に作品を公開し、ショップからPR動画の制作依頼が舞い込むほど。つまりは趣味の垣根を越え、プロのクリエイターとして活動している。
「映像や写真に興味を持ったのは5歳のとき。映画『シン・ゴジラ』を観たことがきっかけでした。CGのすごさに驚いて、『僕も作ってみたい!』と思ったんです。CGを作れるアプリやソフトをダウンロードして、自分なりに制作を始めました。YouTubeのハウツー動画を見たり、SNSのコメント欄からやり方を教えてもらったり、全部が独学です」(才紋くん)
弱冠5歳にして映像の魅力とクリエイティブの楽しさに開眼し、才紋くんがクリエイターとして本格的に始動したのは6歳のとき。父親である博昭さんがファウンダーを務めるグラノーラとジンジャーコーディアルの店「FRUCTUS」のイメージムービーを制作したことが出発点に。オファーをしたのはもちろん、才紋くんの才能にいち早く気づいた博昭さんだ。
息子の制作スタジオにするために、広さが絶対条件に。
ブランドの代表ともうひとつ、博昭さんはインテリアのプロでもある。若くして輸入家具のショップを設立し、現在もチェコの老舗として知られる家具メーカー「TON」の輸入代理店を営んでいる。それだけに、住まいやインテリアへのこだわりは人一倍。博昭さんが暮らすのは、築50年を数える元銀行という物件だ。
「ここに引っ越したのは1年ほど前のこと。広さを絶対条件に、物件を探しました。望みどおりの広さはもちろん、さすがは元銀行らしく、倉庫や金庫室まで備えています。この広さと間取りのおもしろさを生かしてスペースの貸し出しもしていますが、広さを求めた理由は息子。ここは才紋の制作スペースでもあるんです」(博昭さん)
そう、ここは博昭さんの住まいであり、才紋くんのスタジオ。仕切りのない開放的なスペースに作業用のデスクがセットされ、その広々とした空間は被写体とたっぷり距離を取った“引きの写真”を撮るにもうってつけ。一般的な住居ではなかなかお目に掛かれない天井高により、撮影の背景として不可欠なバックペーパーを張ることもできる。
才紋くんは「ここなら何でもできます。最高の環境です」と口元をほころばせ、その制作光景は父との二人三脚。博昭さんは「僕はあくまでも黒子」と話し、影ながら息子の創作活動を支えているが、制作のために選んだ住まいを彩るインテリアもまた、才紋くんの感性を育むのにひと役買っているという。
“いいモノ”に囲まれ、“いいモノ”が被写体になる。
「お父さんと違って、僕はインテリアに興味がないんです。でも、無関心というわけじゃなくて、お父さんが選んだ家具や雑貨は、僕にとっての被写体。『これを撮ってみたい!』と思わせてくれます。InstagramやYouTubeにアップしている『EAMES Erephants』という動画も、お父さんのコレクションを主役にした作品です」(才紋くん)
言うまでもなく、住まいのインテリアをコーディネートしたのは博昭さん。リビングダイニングの窓際には、才紋くんの撮影モチーフとなったゾウの木製オブジェが顔を出す。このオブジェが被写体として才紋くんの創作意欲を掻き立てたように、博昭さんは「インテリアが子どもの感性に影響を及ぼすのは、ごく当たり前のこと」と話す。
親が選んだいいモノに囲まれ、育まれたセンスの一例がスタジオ兼リビングの壁。制作スペースの壁の一部は黒と赤のバイカラーに塗装され、色を選んだのは才紋くん自身。その独特な配色に対し、博昭さんは「僕が収集しているアパレルのコレクションを身近に見ている影響かも?」と話す。
一転、居住空間の壁はパステルカラー。聞けば、博昭さんは引っ越しごとに家具を一新。前の住まいで使っていた家具は持ち込まないという。その理由は、テーマ性。転居のたびに新たにインテリアのテーマを考え、それに沿った家具を一からセレクト。テーマにハマる家具がなければ、どんな名作でもカスタム。色を塗り替えることもいとわない。
「外に出掛けるためのファッションと違って、住まいは完全なるプライベート。流行とは無関係に自分の目で見極めた、本当にいいと思えたモノだけをインテリアとして選んでいます。そうして親が目利きしたいいモノに幼いころから囲まれていれば、子どものセンスはおのずと育まれるはず。僕はそう思っています」(博昭さん)
子どもの感性をおのずと育む、テーマ性のある住まい。
テーマ性を持った博昭さんのインテリアコーディネートは、いわば、ひとつの作品。住まいそのものが博昭さんによるクリエイティブともいえる。すると、子どもの感性が刺激されるのもより納得。博昭さんは住まいのことを“白い箱”と表現し、才紋くんは「この家もまだ、完全に出来上がったわけじゃないしね」と話す。
事実、引っ越しから1年を経た今も、住まいは改装の真っ最中。元銀行の倉庫や金庫室の面影を生かしながら独創性のあるスペースに仕上げるため、「ようやくテーマが固まってきたところ」と博昭さん。
完成を急がず、1年をかけてテーマを練るとは、博昭さんの手掛けるインテリアは、やはり作品。その作品に刺激され、才紋くんもまた、新たにインスピレーションを刺激されるに違いない。
- Photo/Hisanori Suzuki
- Text/Kyoko Oya
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