- Koichiさん/Davidさん(WEBデザイナー/教師・アーティスト)
- コウイチ/デイヴィット|Koichiさんは、ECサイト制作などを中心に活躍するフリーランスのWEBデザイナー。南アフリカ出身のDavidさんは、大学時代に墨絵を学んだことをきっかけに日本へ留学し、その後、京都へ移住。小学校の外国語講師を5年間務め、東京へ。現在はインターナショナルスクールの教壇に立ち、写真やシルクスクリーンについて教えている。ふたりが出会って10年。現在の住まいには2018年に入居し、2022年にリノベーションを完了。愛猫のソフィーと暮らす。
- Instagram - @tokyo_blue_apartment
セルフリノベーションを目指したきっかけ
玄関を開けると、「こんにちは〜!」と揃って出迎えてくれたふたり。玄関にあしらわれたネオン菅の明かりや、カラフルなインテリア以上に明るいふたりのウェルカムムードに、ホームパーティに招かれた友人のような気分になってしまう。美しい毛並みの愛猫・ソフィーが、少し遅れて顔を見せた。
ふたりがこの部屋を購入したのは、2018年のこと。ヴィンテージマンションに絞って、フルリノベーションすることを前提に物件を探していたという。タイミングに恵まれ、希望の床面積や土地の利便性などをクリアするこの部屋に巡り合うまでには、わずか半年だった。
「窓が多いのも決め手でした」そう言われてぐるりと見渡すと、奥の窓から富士山が見える。空気が澄んで、雪を被った頂がくっきり。いいタイミングに取材できたね、と言われているような気がした。
「どうぞ」と言われてダイニングテーブルにつくと、ほどなく、アイスコーヒーと焼き菓子がさりげなく振る舞われ、かたわらに人懐っこいソフィーがすり寄ってくる。
ここへ引っ越す前、団地リノベーションプロジェクト「MUJI×UR」の賃貸で暮らしていたふたり。それが、中古物件を購入し、セルフリノベーションしてみたいと思うようになったきっかけだったとか。
「実家が団地で、とくにいいイメージを持っていなかったんです。でも、リフォームやリノベーションでこんなにも変わるんだって。想像をはるかに超えて、イメージを覆されたというか」(Koichiさん)
建物のポテンシャルに左右されない、リノベーションの面白さと住まいの可能性に直に触れ、持ち前のクリエイティブマインドにも火がついたのかもしれない。
真ん中で切り替えられた床。内装デザインのさじ加減は?
とはいえ、ふたりともリノベーションの経験は皆無。技術や知識に明るかったわけでもなく、ただ興味のままに、YouTubeなどで独学しただけというから驚かされる。「やりはじめたら、だんだん止まらなくなって」と、もとは3LDKだった間取りをおよそ60平米のワンルームにし、張られていた素材をすべて取っ払い、床以外はスケルトンの状態に。そうして、およそ3年間作業を続けたあとで、見えなかった“壁”にぶち当たった。
「コンクリートの塊とか、石膏ボードとか、どうしても個人で捨てられないゴミが出てきて。仕分けまではできても、産廃業者は個人だと対応してくれない。捨てられないから、しばらくはそれらと一緒に生活していました……(笑)」(Koichiさん)
これ以上は自分たちの手に負えない。ならばと切り替えて、プロに助けてもらおうと工務店探しをはじめたという。友人の建築士に設計からお願いする案もよぎったものの、ふたりの理想がきっぱりよどみなかっただけに、それを汲み取り、ふたりにできない部分のみ任せられる相手を選んだ。
「大胆に、ラフに。全体としてはそんなイメージを持ちながら、細かい内装までしっかり相談して進められました。たとえば、通常は鉄製のパイプなどでカバーする電気配線も、あえて剥き出しにしてもらったり」(Koichiさん)
工賃を鑑みて、床だけは解体せず、既存の床のうえに好みの材を張ることにした。デパートなどでよく見られる塩ビのフロアタイルと、カオチンという下地材が、ちょうど部屋の中央で切り替わるかたちに。
採光を生かすことにもこだわった。とくに、暗かった玄関まわりに光が届くよう、バスルームの間口を大きく取りながらスモークガラスだった戸を透明なガラスに替えるなど、工夫を凝らした。
壁や天井の色も隅々までふたりで選び、自分たちの手で塗装した。
「絶対にピンクにしたいと思っていた」というバスルームは、以前メルボルンで訪れたAesopの店舗の一角から着想。塗料をかなり細かくオーダーメイドしてくれる塗装メーカー・ベンジャミンムーアに、理想の色を忠実に再現してもらったという。
キッチンはIKEAに注文。「日本規格のキッチンは女性向きにつくられているのか、身長のある僕らには使いにくくて」と、決め手は“高さ”だったという。日本の商品より2cmほど高いartekのダイニングテーブルも同じ理由で海外から取り寄せ、バスルームの洗面台も通常より高い位置に取り付けた。盲点になりがちだが、インテリアの“高さ”は快適な暮らしのためにかなり重要かも。
ここまできて、素材選びや配色の、その絶妙なさじ加減の出どころが気になっていると、「じつは、個人的にはMUJI×URの部屋のようなナチュラルでミニマルな内装が好きだったんです」と、意外なことを打ち明けるKoichiさん。それを受けたDavidさんが言うところには、「たとえば床材は、コンクリートが好きだったコウイチと、ブルーにしたかった僕の好みが、ちょうど半々だよね」。
要は、ふたりの趣味趣向が、てらいなく合わさった結果。当然と言えば当然だが、床一面にふたりの理想をそっくりのっけてしまう大胆さは、お互いの感性を信じ合い、尊重し合うからこそ。
インスピレーションの源は、公共施設やショップ
バスルームの壁の色をAesopの店舗内装を参考に決めたように、ふたりがこれまで訪れてきた場所や見てきたものからのインスピレーションが、住まいのそこかしこに息づいている。
たとえばバスルームのドアに、公共施設などのトイレによく使われているという亜鉛鉄板を用いたのもひとつ。一般の住宅にはほとんど用いられない素材だったため、工務店にかなり無理を言って用意してもらったとか。
洗面台も、以前どこかのショップで見かけてひと目惚れしたDURAVIT製。細い縁のラインやスクエアシルエットなど、シンプルななかに実は個性のあるデザインバランスが気に入っているという。
そうして部屋の隅々にまで自分たちの趣味趣向をたくみに散りばめていった彼ら。意見が合わないことはないのだろうか、と率直にぶつけてみると、「結構あるよね(笑)」と声を揃えて顔を見合わせる。「たとえば、僕は病院にまつわるプロダクトが大好物なんです」と意外な好みを打ち明けたのは、Davidさん。
ダイニングに置かれた病院用のスチールワゴンに、病室を思わせる就寝スペースのカーテンレール、またブルーの塩ビの床材については、カラーリングの着想こそ『Friends of Friends』というベルリンのライフスタイル誌で紹介されていた住まいだが、「病院の床みたいで、いいでしょ?」と、デイヴィッドさんの着眼点はひと味違う。
「体が弱かった幼少期、病院によく通っていました。だからこうしたものが部屋にあると、その頃の思い出が蘇って気持ちが落ち着くんですよね」(Davidさん)
大量のピルの写真を整然と並べたダミアン・ハーストの『Pharmacy Wallpaper』も、Davidさんの宝物。「Pharmacyというハーストのレストランで使われていた壁紙の一部なんです!」
かたやKoichiさんはそこにブレーキをかけることもあるらしく、以前、病院で使われていたアンティークの鉄製ベッドをDavidさんが欲しがったときは、さすがに勘弁してもらったのだとか。
「Davidはアーティスト寄りだから、直感的な買い物が多い。僕はデザイナー気質なところがあるから、機能や意味を求めがち」(Koichiさん)
ふたりの好みや性格が絶妙なバランスで折り合って、住まいに心地よい調和がもたらされているようだ。
ちなみに、Davidさんの故郷である南アフリカにはふたりでよく旅行しており、現地で買い揃えた民藝品やテキスタイルなども、部屋をカラフルに彩っている。また、買い付けた生地などを使いインテリアや洋服を仕立て、オンラインショップで販売したりもしている。
窓で切り取られた景色まで、色鮮やか
MUJI×URの住まいに触発されて一念発起。紆余曲折ありながらも、物件のポテンシャルはなんのその、ふたりの“好き”と“好き”を大胆に掛け合わせ、ルーツや感性を心地よく調和させたカラフルな住まいをつくり上げた。窓の向こうのその景色まで、色に溢れるこの部屋と地続きのようで、いつもよりそこはかとなく鮮やかに映るほど。
そして、「またセルフリノベーションをするなら、今度は南アフリカでやりたいね」と、軽々、ふたりのアイデアは海を越えていく。
- Photo/Sana Kondo
- Text/Masahiro Kosaka(CORNELL)
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