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「生活感」からの脱出。陽の光とクリエイティブにあふれた手作りの居住空間。
CULTURE 2024.04.15

「生活感」からの脱出。陽の光とクリエイティブにあふれた手作りの居住空間。

フリーランスのデザイナーである高野誠也さんが住むのは、都内から少し離れた新築マンション。陽光が一日中差し込む広々としたリビングは、生活感がなく、クリエイティブにあふれる空間に仕上がっている。そして、ここに暮らしはじめたことで「デザインの仕事も捗っている」という。なぜこの場所だったのか、そして部屋のこだわりは。話を聞くため、自宅へとお邪魔した。

INFORMATION
高野誠也(デザイナー)/マユコ(音楽関係)
高野誠也(デザイナー)/マユコ(音楽関係)
たかの・せいや/まゆこ|誠也さんは企業のロゴやパンフレットなどのデザインを手がけるフリーランスのグラフィックデザイナー兼YouTubeの配信者。マユコさんは舞台を中心に音楽関係の仕事に従事。2022年から飼い始めたブリティッシュショートヘアのミルちゃんと暮らす。

よりよい住まいを求め、辿りついた防音室のある家。

長年暮らしていた都心から少し離れ、郊外へと高野夫妻が越してきたのは2023年。それまでは築古の都内のマンションに住んでいたのだが、仕事がリモートワークになったことや結婚を機に、新築のマンションへと移り住んだ。

「以前の家は設備がすべて古かったので、何かと手入れが必要でした。水回りも相当年季が入っていたし、床もボロボロだったので、自分でクッションフロアを敷いてDIYしていました。だったら、もう綺麗なとこに引っ越そうとなり、ここに決めました」と誠也さん。

築8年のマンションは地上6階建てで、閑静な住宅街のなかにある。周囲は静かで、3面採光の家は一日中太陽が注ぐ。もちろん水回りも床も、ピカピカだ。

この物件に決めたもうひとつの大きな理由は防音室があるということ。妻であるマユコさんは舞台やイベントで歌い手として活動しているため、その練習場所として防音室が絶対に必要だった。

「いまはどれだけ大きい声を出しても、防音室の扉を締めておけばリビングまで音が聞こえてこないほど。近所に迷惑をかけることもないし、前よりものびのび練習できています」

インテリアの印象を決定づける、赤茶色の壁紙。

「インテリアに関しては本当に無頓着なので、全部お任せしています」というマユコさんの言葉通り、2人が多くの時間を過ごすリビング兼寝室は誠也さんの趣味趣向が反映されている。

以前まで住んでいた家はアメリカンヴィンテージがテーマで、ウッドの家具で埋め尽くされていたというが、新居に越してからは建物のベースに合わせてコンテンポラリーな家具が並ぶ。

「ここの家は床が大理石なんです。正攻法で行くと大理石に合わせてラグジュアリーな雰囲気になっていくと思いますが、そうはしたくなかった。とはいえ、以前使っていた家具を置くとちぐはぐな雰囲気になってしまうので、いろいろと買い替えました」

そして、高野さん夫婦の家で最も目を引くのが赤茶色の壁。

もとは真っ白だったところに、自身で購入してきた壁紙を貼ったという。そのおかげで視点が壁へと誘導され、大理石の床との調和が取れている。

また、全面に貼ることはしない。全体のバランスを考え一部のみが赤茶色になっている。そこはグラフィックデザイナーという仕事で蓄積した色使いや余白の使い方が、存分に発揮されている点だ。

「部屋のイメージを大きく左右しかねないので、壁紙を変えるのには勇気がいるんです。ただ、よく見る雑誌ですごくいいなと思った家があって、それを参考に思い切って変えてみました。結果、部屋も明るくなり気に入っています」

この範囲に新しく壁紙を貼るのはなかなかの大仕事。壁にあるスイッチなどの形に合わせて細かく切り抜いたり、途中で長さが足りなくなって継ぎ足したり。そんな手間のかかるDIYも、理想の我が家を実現するためだと思えば愛おしい作業だ。

「生活感」は2人の暮らしに不要なものだった。

壁紙からもわかる通り、家づくりで誠也さんが最も大切にしているのが色。インテリアを含め、色数やバランスは細心の注意を払っている。

「色はこだわるというよりも、これ以上は絶対に増やさないというルールを作っています。なのでいいデザインのものであっても、色が増えそうだったら買いません。いまはモノトーンと壁紙の色をメインに据えて、アクセントとして緑がある。“メインカラーが7割、アクセントカラーが3割”くらいがちょうどいいと思っています」 

家具選びに関しては、それぞれの個体にデザイン性のあるものが多い。「リーン・ロゼ」の名作ソファをはじめ、フラワーベースや壁にかけられたオブジェなどはミッドセンチュリーを思わせる。

そうした結果、この家にはいわゆる「生活感」を感じられない。それも狙いのひとつだった。

というのも、誠也さんはいま、この家でデザインの仕事をすることがほとんど。ここは自宅でもあり、職場でもある。だからこそ部屋は快適性に加え、クリエイティビティがあふれる空間でなくてはならない。インスピレーションが大事な仕事において、それを邪魔するものは部屋に必要ないというわけだ。

「その延長で、よくあるソファ、ローテーブル、テレビみたいな配置にもしたくなかった。しかもテレビは存在感があるし生活感がグッと増してしますから、可動式のものにして場所を固定しないようにしています」

誠也さんの仕事場は、リビングと地続きになっているベッド横に置かれた昇降式のデスク。窓の外には、遮るものがない広々した景色が広がっている。集中したいときやマユコさんが寝静まったあとは、防音室で仕事をすることも。

ちなみに誠也さんはYouTubeの配信者でもある。自身の日常を切り取ったり、お気に入りのガジェットなどを動画で紹介しているので、気になる方はぜひチェックを。

もちろん、ここは生活の場でもあるため、リラックスできる空間もしっかりと備わっている。2人のお気に入りはベランダ。椅子2脚とテーブルを置いてもゆとりのあるスペースで、あたたかい季節は食事をしたり、読書をしたりして過ごすという。

自分が「いい」と思えることがなにより大切。

「この家に越してきてからは以前よりも仕事も捗っている気がする」という誠也さん。どうやら空間とクリエティブには密接な関係があるようだ。部屋作りで何より大事にしているのは、「住んでいてテンションが上がるかどうか」ということ。彼にとっては、こうした生活感のない暮らしが、インスピレーションを得るために必要不可欠だ。

マユコさんも、思い切り仕事に没頭できる。どれだけ大きな声を出しても周りには聞こえない。だからこそ、スキルもどんどん上達していく。

仕事と生活を両立した2人の家だが、実はまだ未完成。引っ越してから2年弱、理想まではもう少しかかるという。

「いまだに、前の家の名残が残っていたりもするんです。ダイニングテーブル周辺はウッドのものなので、そのあたりはまだまだ統一感がない。まだまだ改善の余地はあると思っています。とはいえ、いまのままでも、十分お互い満足しているんですけどね」

高野さん夫婦は、活躍の場をさらに広げていこうと考えている。そのためには、生活と仕事のベースとなる家に、妥協はできなかった。そうして見つけた理想の住まいで、これからもお互いを尊重しながら、クリエイティブな時間を過ごしていく。

  • Photo/Hiroyuki Yamada
  • Text/Keisuke Kimura
LL MAGAZINE