部屋の中心に2本の柱。マイナスをプラスに転じるクリエイティブな空間。
いつでもどこでも仕事ができてしまう昨今、オンとオフを割り切ることは、想像以上に難しい。以前取材した「名称未設定株式会社 別邸」は、仕事とプライベートをきっぱりセグメントしない社風そのままの、ユニークな空間づくりが特徴だったが、そこに所属する彼女の場合はなおのこと。仕事と暮らしをわけへだてなく謳歌しながら、それでもいまは軸足をすこし“生活”のほうに移そうと、新居への引っ越しを決めた。
- 濱家 ひなた(クリエイティブディレクター)
- はまいえ・ひなた|日本美容専門学校を卒業後、美容師として1年間活動。その後「BOOK AND BED TOKYO」で約3年半働き、退職。「名称未設定株式会社」のクリエイティブを担当しながら、ヘアメイクの仕事などもおこなう。
- Instagram - @hin_a_tan_
ワンルームに即決した理由は、「とうふ」?
以前、LIFE LABELで取材した「名称未設定株式会社」の一員である濱家さんは、2023年末、広々としたシンプルなワンルームへ引っ越した。一面の窓から気持ちのいい日差しと風が差し込む居心地のいい空間は、すでにファッションブランドのイメージビジュアルの撮影などにも使われたことがあると聞き、驚いた。
この部屋を新居に選んだ理由について聞くと、開口一番、「ほとんど、『とうふ』のためと言ってもいいくらいです」と彼女。「とうふ」とは、冷蔵庫脇の隙間にひょいと隠れては現れるを繰り返す人懐っこい愛猫のことで、1年くらい前に飼いはじめたその猫のために、きっぱりワンルームに絞って物件を探しはじめたという。
「内見は10軒以上、じっくり回りました。こだわりが強すぎて、なかなか思うような物件に出会えずでしたが、ようやくここを見つけて即決しました」
邪魔になりそうな2本の柱も、ポジティブに捉え直す。
広々とした開放的なワンルームではあるものの、ただ何の特色もないかといえばそういうわけではなく、部屋の真ん中には、幅80cmほどの大きな白い柱が、ふたつも。
「最初見たときは、邪魔になりそうだな……とも思ったんです。住んでみると、この柱のおかげで、『こっち側がゆっくりする場所』『こっち側が作業する場所』みたいに空間をなんとなく分けることができて」
必要に応じて、柱の間に有孔ボードやカーテンなどを取りつけ、空間を隔てる“濃度”を調整できそうなのもいい。窮屈さが感じられないのは、天井が高めなのもあるだろうか。
そのように、ともすればマイナスになってしまいそうなしつらえも、それがあるおかげでむしろ広く感じるくらいだと、ポジティブに捉える濱家さん。そればかりか、柱の周りをデッドスペースにせず、上手に活用している様子さえ伺える。
「柱を利用して本棚をDIYすることは、入居前から決めていたんです」
ツーバイ材を使い、数万円でつくった本棚には、好きな小説や、集めているアートブックや雑誌が、書店のディスプレイさながらに綺麗に並べられる。また、もう一方の柱は作業デスクとしても活用されていて、空間を無駄なく使う工夫が見られる。
家具選びは、レコードのように直感で。
「いわゆる有名な家具って、好きじゃなくて。だから、『名称未設定株式会社 別邸』に置かれたインテリアも、じつはほとんどよく知らないんです(笑)」
ブランドやデザイナーの知名度や人気に、濱家さんは価値を感じないという。むしろ感覚的に惹かれる気持ちを優先するという自由さが、いまっぽくて素敵だ。
「このコーヒーテーブルなんかは、まさにそうで。引っ越してから買った数少ない家具のひとつですが、ふらっと立ち寄った千駄木の『FUNagain』で偶然見つけたものなんです。オランダの彫刻家 "Paul Kingma(ポール・キンフマ)"がつくったものらしく、一点物のデザインというところにも惹かれました」
そうやって感覚的に買い物を楽しむことを覚えたルーツを聞くと、「たぶんレコードかも」と、少し考えてから思い至った様子の彼女。
「高校を卒業した頃にハマりました。最初はフランス映画のサントラや、UKロックなどを中心に聴いていましたが、そこから海外の音楽雑誌などを読んで、どんどん掘っていくようになって」
奇しくも、濱家さんが暮らすのはリサイクルショップや古家具屋の多い街。中古レコードを買うような軽やかな買い物が、こんな環境ならますます捗りそうだ。
ワークとライフのバランスを整える。
「いまは出張で家を空けることも多くて。それに、職場から家に帰ってきても、基本的にダラダラと深夜まで仕事を続けてしまうタイプなんです」
そんな働き盛りの濱家さんも、新居への引っ越しを機に、その軸足がほんの少し生活寄りになったし、今後さらにそうしたいとも話す。空間を活かしながら挑戦するDIYや、直感や出合いをたっとび選ぶインテリア、そして愛猫とたわむれる時間が、しかるべく、ワークとライフのバランスを整えてくれるに違いない。
- Photo/Hiroyuki Takenouchi
- Text/Masahiro Kosaka(CORNELL)
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