室内に植物園!? 型破りなアイデアが生んだ"くの字"の家。
くの字に折れた躯体に、せり出た逆三角形の外壁、そして2階の大きな窓の奥に見えるのは、うっそうとした何か。いまにもトランスフォームして、今にも歩き出しそうな、生き物みたいな家。中に入ると、またすごい。壁も天井も色とりどりで、部屋ごとに雰囲気がどんどん違う。階段の壁一面は本棚だし、こども部屋からロフトに上がると見渡せるリビングには、ハンモックが渡されている。その奥には、まさか、植物園……?
家づくりは、「つぼノート」からはじまった。
家を建てるのにもいろんな選択肢があるなかで、普通じゃないのが面白いと思った。それこそ、この先何十年住むからこそ–––
家づくりを検討しはじめたとき、木元夫妻はそんなふうに折り合って、建築事務所「ニコ設計室」に相談を持ちかけた。一般的には、「“普通”だからこそ飽きがこず、永く住み続けられる」と考えられがちだが、「楽しそうだから」と、さらり、そうじゃない選択をした。
紫、グレー、緑、クリーム、ボルドー…。壁や天井の色ひとつとっても、あきらかに型破り。家のかたちも“くの字”に曲がっているし、リビングからひと続きになったインナーバルコニーには、植物がうっそうとしている。家そのものが、生き物さながらで有機的。ジブリの魔法にかかったみたいに、いまにも動き出しそうで、ちょっとおっかなく、でも、なんだかワクワクする。
初めの打ち合わせから家が建つまでは、たっぷり3年。はじまりは、「つぼノート」をつくることから。
「自分たちが“つぼ”だと思うモノやコトを、スクラップブックにまとめていくんです」(夫)
「私たちの場合は、たとえば旅に行った話とか、植物のこととか、好きな絵本の色づかいとか……。そうしたことを書いたり貼ったりして、それをもとに、間取りや内装デザインを相談しました」(妻)
通常、「リビングは最低何畳欲しい」「キッチンは対面式がいい」「個室はいくつ必要で」といった具体的なヒアリングからはじまる家づくり。ここは、住まい手が大事にしていることや、彼らの人生にかけがえのないものを通して形づくられた住まいなのだ。
そんな、当たり前だけにないがしろにされがちなことが、のっけから大切にされていたということ。そうしてできた家だから、血が通って見えたのだろうか。
荒々しいダイニングテーブルが起点の、空間演出。
家づくりの起点になったのはダイニングテーブルだったという。トラックファニチャーのテーブルが憧れで、「家を建てたあかつきには……」と思いつつも、どうしても我慢できず賃貸のときに購入してしまったのだとか。
思い入れもひとしおのこのテーブルは、不揃いで、荒々しい。たとえば天板も、つなぎ合わされたそれぞれの木の表面がそのまま生かされ、あえてフラットに整えられていない。そんな、家づくりのゼロ地点より前から存在したテーブルだが、じつは、この家の内装にもしかるべく影響を滲ませる。
キッチンのカウンターには、ほかの部分と異なり、古くなってアジが出た木材が使われている。また、1階にある洗面台にも、同じく古材があしらわれていて、こちらは迫力もかなりのもの。何十年も前からそこに鎮座しているような、圧倒的存在感で、バスルームはもとより、家全体をもぐっと引き締めている。
壁の一部も、よくよく見ると、毛羽立っている。触れると、ガサガサ。聞けば、「もう1回カンナをかけると完成」という“一歩手前”であえてとどめ、独特の荒々しさを演出してあるのだという。1階の書斎のガラスにゆらぎのある素材を選んだのもまた、同じような理由だ。
そうした古めかしさや、不揃いなデザインが、住まいに通奏低音のごとく染み渡っているわけだが、どれももとを辿れば、トラックファニチャーのダイニングテーブルが導き出した演出だというから、面白い。
住まいの“特等席”は、あっさり、植物へ。
リビングからひと続きに、インナーバルコニー。そこは大の植物好きの夫が念願した、この家の核とも言える場所で、いわずもがな、“つぼノート”から生まれた空間だ。しかも一番日当たりのいい南側で、そんな住まいの特等席を、あっさりと植物に明け渡した。
「私の父親が植物好きで、小さい頃から家に植物がありました。だから、住まいに植物があるのは当たり前の感覚で」(夫)
インナーバルコニーは、東から西へ、ほぼ1日中日が差し込むようにガラス張りになっていて、天窓もある。また、風もうまく流れる設計。水場もあるため、水やりもここで完結する。光、風、水。植物に必要な全部が抜かりない。
ちなみに、リビングとの境目は戸で仕切ることもできるため、夏や冬も、生活空間を快適に保つことはできるのだという。
「ソファに座ったときの眺めも格別です。暖かくなってきたので、どんどん芽吹いていて、楽しくて癒されます」(夫)
以前はオーガスタやウンベラータといった大きな鉢モノが好みだったというが、もっかハマっているのはビカクシダ。リビングにも多少侵食気味だが、まるでカラフルな壁から生え出たようで、この家と絶妙に似合っている気がする。
ひと癖もふた癖もあって、でも、住みやすい。
普通じゃなくて、個性的。
そんな一言ではとうてい片付けられない、木元一家の住まい。ひと癖もふた癖もあるはずなのに、「住みやすいよね。普通の家に住むのは、ちょっと考えられない」と家族そろって飄々と言ってのけるのは、好きも想いも暮らし向きも、いっしょくたに詰まっているからだろうか。
「じつは、ガレージやパントリーの棚は私が自分で造ったものなんです」(夫)
「畳の部屋の壁は、家族みんなで和紙を貼って仕上げたんだよね」(妻)そんな風に、あちこちに家族の手も加わって、ほっこりあたたかいのも、きっとその住みやすさの一因に違いない。
- Photo/Hiroyuki Takenouchi
- Text/Masahiro Kosaka(CORNELL)
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