ハイエースが寝室!?家のど真ん中に愛車をレイアウトした、趣味ファーストなガレージハウス。
日常を特別にしてくれるアウトドアリビングを採用したり、自宅の一角にサウナをビルドインしたり、壁に防音材を敷き詰めて部屋を丸ごとライブスタジオにしたりと、大きく様変わりしている家の在り方。そこでLIFE LABELでは「◯◯◯ in da house」と題し、自宅に“好き”を体現する人たちの“趣味(仕事)部屋”を取材。 今回は、車中泊好きが高じて“クルマと住むためのガレージハウス”を建てた、クリエイター夫婦のご自宅にお邪魔した。
- ナガオサ ユウキ/カオリ(映像クリエイター/デザイナー)
- ながおさ・ゆうき/かおり|ドキュメンタリーをメインに制作する映像制作会社を夫婦で運営。ユウキさんはビデオグラファーとして、カオリさんはデザイナー&ライターとして活動しながら、ときに旦那さんのカメラアシスタントを務める。機材車として購入したハイエースを車中泊仕様にカスタムし、全国各地を旅しながら映像制作を行う。
- Instagram - @document.ch
クルマと共に、ガレージで暮らす夫婦。
「本当に、ここで生活しているんですか?」
特異な間取りを目の当たりに、思わず失礼なことを口にしてしまった。
訪れたのは、映像クリエイターとして活躍するナガオサ夫婦のご自宅。「こだわりが詰まった家ですので、まずはルームツアーからどうぞ」と家の中を案内してくれたのだが、寝室はどこにも見当たらず、“ベッドルーム”と書かれた扉はあるものの、どういう訳か、その扉を抜けると屋外へ。それゆえの、開口一番の質問が先述したものである。
「ここに家を建てる前までは都内のマンションに暮らしていたんですけど、そこでの変わり映えしない日常に夫婦ともども物足りなさを感じていて……。毎日ワクワクできるような、そんな空間を求めていったらどんどん変な家に(笑)。このガレージハウスはもともと、オフィス、スタジオ、キッチン、風呂、トイレとして使うことだけを想定して建てたもの。なので、この家自体に寝室っていう間取りはなく、寝るときは……」
これを見てもらった方が分かりやすいかもしれませんね」と、おもむろにスマホを操作し始めるユウキさん。スマホの画面を覗き込むと、<Minecraft(マインクラフト)>のCGオブジェクトが映し出された。話によると、この画を大工さんに見せるところから家づくりが始まったそう。
キャンピングカーが、我が家の寝室です。
走行距離10万キロで慣らし運転、メンテナンスを怠らなければ100万キロ以上走ることも可能と言われる<トヨタ>ハイエース。広い室内空間はバンライフとの親和性が高く、かくゆうユウキさんも「もう一台、キャンピングカー仕様の黒いハイエースナローも所有していて」と、2台のハイエースを使い分けている。
「黒いハイエースは表に停めていて、そっちはSUPやキャンプなどのアウトドアアクティビティを楽しむときに。ブルーのハイエースは、この家の“寝室”としての活用がメインですけど、撮影の合間に観光ができそうなら、この“動く寝室”を持ち出して、行く先々で車中泊を満喫することも(ユウキさん)」
「以前よりもややコンパクトな寝室に変わりましたけど、それでもセミダブルのマットを敷いているので、大人ふたりが寝るには十分な広さですよ」と、カオリさん。リラックス効果に期待できるヒノキ合板をたっぷりと使用した車内には、小型の冷蔵庫やポータブルエアコンなどを完備。暑い夏場も快適に過ごせる工夫されていた。
いずれは土に還る、自然と共生する伝統構法の家。
大好きな愛車をインテリアとして嗜むことができたなら。そんな想いから建てられた“クルマが主役”のガレージハウスは、どこにいても愛車が視界に入るよう一体型のLDKに。その開放的な作りと、爽やかなペールブルーを纏った佇まいからは、バンライフカルチャーの発祥の地とされる、アメリカ西海岸の空気感が漂っていた。
一方、家の構造に目を向けると、昔ながらの日本家屋を思わせる“和”な造りが印象的。
「この家は、日本に古くから伝わる伝統構法が用いられています。簡単にいうと、“木組み”ですね。釘や金物を使わずに木だけを組み合わせて作っているので、いずれは土に還ることができるんです。以前、伝統構法を用いる大工さんのドキュメンタリーを撮らせていただいたんですけど、今の話はまさしくその方から借りた言葉で。ここにあるものすべてが土に還るわけではないですけど、家の大きな構造だけはそうあって欲しいなと思い、その大工さんに施工を依頼しました(ユウキさん)」
「現代建築を否定するつもりはないですし、実際に最新素材は丈夫で長持ち、それでいて安価なものがたくさん出ています。でも、新しい技術を使って建てた家が100年後、200年後も現存できるかっていうのは、難しい話だと思うんです。一方で、神社・仏閣など伝統構法で建てられた建物は、築1000年を超えるものが実際にあって、建物としての強さが立証されています。もちろん、メンテナンスをしっかり行うことが前提ではあるんですけど、地震大国で発展してきた日本の伝統構法ならでは(ユウキさん)」
ガレージハウスといえば、その背景に沿ってオールドアメリカンなテイストに仕上げられるパターンが多いが、和洋折衷な空間づくりから見ても、ユウキさんは「どっぷりアメリカンな感じにしようとは思ってなくて」と、独自のセンスでインテリアを楽しむ。
「アメリカンカルチャーは大好きですけど、ドイツ発のインテリアブランド <KARE(カレ)> も好きですし、チェコスロバキアのファクトリーランプもお気に入り。この家に伝統構法を用いた理由も、もちろん“和”が好きだからです。ひとつのジャンルに限らず、僕たちは好きなものを自由に、良いとこどりをしたいんです(ユウキさん)」
できるところは自分たちで。ハーフビルドという選択肢。
好きなもので満たされた職住一体のガレージハウスには、平日になると夫婦のほか、ユウキさんが代表を務める映像制作会社のスタッフが出勤する。
「午前9時から始業開始なので、それまでに下のキッチンで朝ごはんを済ませて、時間になったらこの中2階で仕事をしています(ユウキさん)」
「施工前のCGシミュレーションにもあった通り、この中2階は当初からプランにありました。けれど、空間として出来たのはここに引っ越してきた4ヶ月後。1から10までを職人さんに作ってもらったのではなく、このガレージハウスはハーフビルドっていう形で、やれるところは自分たちで施工しているので、大工さんに教えてもらいながら壁や床の板張り、お風呂場の洗面台もふたりで作りました。これなら最低限の生活を始められる。そんなタイミングで引っ越してきたので、暮らしながら完成させていったスペースが結構あるんですよ(ユウキさん)」
ナガオサ夫婦がここで生活を始めたとき、内装のほとんどが完成しておらず、内壁も自分たちで漆塗りに。徐々に家としての空間を整えていき、なかでもその雰囲気をガラリと変えたのが、この中2階だったという。
「この階段には、特にこだわっていまして。というのも、一般的な下から支えるのが主流じゃないですか。でも、それだと生活動線の邪魔になるなと思い、天井で固定できる“吊り階段”のフレームを鉄骨屋さんにオーダーしました。無理を言って作ってもらったので、フレームが完成するのに結構時間がかかりましたね(ユウキさん)」
暮らしの中で作り上げていく家は、未だ完成途中。
「内装の中で一番最後に完成したのが、こちらです。この家で生活を始めて2年ぐらいが経つんですけど、キッチンは今年の4月にようやく完成。単管パイプで作ったフレームに、最初はモルタル天板を合わせようと考えていたんですけど、素人で左官をするのはさすがにハードルが高く……。それで一枚板を購入し、モルタル風に見える塗料を表面に。瓦を砕いた塗料なんですけど、本来、屋根材に使われるものなので耐水耐熱に優れ、料理中も安心・安全です。妻の1番のお気に入りスペースになっています(ユウキさん)」
「思った以上に内装の制作に時間をかけちゃいましたけど、ようやく家の内側が完成したので、これからは家の外も。まだこの家は、完成途中です」と語るナガオサ夫婦。完成してもなおこのガレージハウスの中で変化を愉しむに違いない。
- Photo / Ryosuke Yuasa
- Text / Chihiro Ito(GGGC)
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