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安藤 桃子|この場所で暮らす理由(高知) ーHOUSE is ENTERTAINMENTー
CULTURE 2022.02.28

安藤 桃子|この場所で暮らす理由(高知) ーHOUSE is ENTERTAINMENTー

映画のシナリオハンティングで初めて訪れた高知県に、一瞬で移住を決意した映画監督の安藤桃子さん。彼女がこの場所で生活する理由とは。心惹かれる場所、日頃から意識していること、高知県での暮らしについて聞いた。

人も空気感もすべてが、魂にヒットした高知県

高知県には当初〝かつおのたたき〟〝坂本龍馬〟というイメージしかなかったと笑う安藤さん。「仕事柄、47都道府県ほぼほぼ行ったことがあるのに、高知県だけはなかったんです。周りにも、四国の中で高知にだけ行ったことがない人が多くて。わたし自身、何の前情報も持っていませんでした」

そんな高知県に初めて訪れたのは2009年。両親のひとことが発端だった。「その年、私は小説を書き切り、一旦すべてを出し切ってしまっていました。映画化を考えていましたが、一種の燃え尽き症候群のような感じで、実際に撮りたいと思える町や人に出逢わなければ、モチベーションが上がらない。悩んでいたところ、高知県で開催される文化フェスティバルに両親が参加することになりました。原作を読んだ父は、脚本になかなか取りかかれない私を見かねて〝おまえ、高知県しかないぞ〟って言ったんです」

そして、その出来事の3日後には、高知県へ向かっていた安藤さん。「空港を降り立った瞬間に、海外旅行した時の自律神経が整っていくような不思議な開放感がありました。空港から街中まで、大きな道路沿いにチェーン店が並んでいるような、他の県となんら変わりない景色なのに、まるでロサンゼルスに行った時みたいに、自分が解き放たれたような感覚。〝ここで撮ろう〟と、すぐに決心しました」

映画のロケをきっかけに、高知県への移住を決意。安藤さんには何かを決めるとき、意識していることがある。
「感覚やハートで気持ちが動く瞬間があって、どんな些細なことでも見逃さないようにしています。そこをしっかりキャッチしてから頭を使う。そして、それをどう実現していくかということを考えます。大きな夢の実現力につなげてゆくためには、日常的に感じる細かな自分の願いを、いかに叶えてあげるかというところにも注力しています。たとえば〝お水が飲みたいな〟と思ったら、とりあえず一口飲む。外に出て太陽を浴びたいなと思ったら、状況的に無理でも、デスクに座ったままでも一瞬、窓の外の太陽を見たり、心地良い方へ意識を動かしてあげる。移住という言葉だけを切り取ると大きな決断のように見えますが、日々の心との対話があったから、高知県とのご縁もできたのかもしれません。結婚とか恋愛とかも〝惚れた!〟と感じても、頭で考えて、都合とか効率とかを考え出すから、色々みんなややこしくなるわけじゃない(笑)? 必ずジャンプする前にホップもステップもあるから、日常を素直に過ごす事って結構大切なのかなと思います」

高知県での暮らしを語るうえで欠かせない場所

①私達も自然の一部なんだと、小宇宙を感じられる

約8ヘクタールの広大な園地である〈高知県立牧野植物園〉。日本の植物分類学の父と呼ばれる、高知県出身の牧野富太郎博士の業績を顕彰するため開園された。「ここの存在が、高知の本質を色濃く表しているなと思うんです。もっと言えば、命の本質を感じる。牧野富太郎さんが生まれ育った現在の高岡郡佐川町は自然豊かで、そこにはすべての植物が揃っているのではないかと言われるほど。その高知の土地で幼少期に得た感覚を持ったまま大人になり植物博士として研究に打ち込むなかで、生涯をかけてあらゆる植物、一般的に雑草と言われる草花にも名前をつけていかれました。それが今、私達にとっての大きなメッセージだと思っているんです。“名付ける”という行為には見逃してしまいがちな、小さな命や存在にも愛のまなざしを向ける心を感じます。命がないと思われがちなプラスチックやゴミのようなものでも、そのすべてに存在意義があって、善し悪しなどではなく、愛そのものだということを気付かされます」

牧野植物園は、元々の山のランドスケープに沿って造られていることも大きな特徴のひとつ。「自然界に人間が何かを作り出すと、削ったり壊したり、なにかしら環境に影響を与えてしまうことがあるけれど、時間をかけて木々や草花が生え変わり、生態系を取り戻すことを重んじた建築です。すべての生き物が自然に調和して暮らせる環境を、建築としても目指されたということも素晴らしい。ここにいると、自分も自然の一部、自他一体を感じられる、本当に心地良い場所です」

information
高知県立牧野植物園
高知市五台山4200-6

②文化の生まれる場所から人の流れは変わる

ケヤキの街路樹と、スラローム型の石畳が続く〈おびさんロード商店街〉。飲食店や、衣料品、雑貨店などが並び、定期的に〝おびさんマルシェ〟も開催されている。安藤さんはこの商店街に、映画館を作った。「映画にとって、監督が入口だとするなら、映画館は出口だと思っています。当時は映画館をやろうという夢があったというよりも、以前下関でミニシアターの館主を務めていた父の背中も見ていましたし、自分の人生の中で必然だったのかも。取り壊しまで2年間、手つかずになるビルがあると知り、ではそこに映画館を作ろうと動き始めました」

通常映画館を作ろうとすれば、最低でも2年ほど、様々なプロジェクトに時間を要す。ところが映画館〈キネマM〉は、たったの数か月でオープンに至った。「スピード感をもって実現できたのは、高知県ならではの街のコンパクトさと人の近さの成せる技だったと思います。期間限定ではありましたが、このことによって街や人の流れが変わっていくのを目の当たりにできました。地方創生が重要視されますが、街の中にひとつ文化のフラグを立てることが必要なんだと思います」

高知県の人たちが、口々に言う言葉〝なんとかなるき!〟〝走りながら考えようや!〟も、〈キネマM〉開館の追い風になった。「どちらかというと東京では真逆ですよね。プロジェクトを立ち上げても、企画を固めてプレゼンして、確実に数字を出せることが見越せてから準備に取りかかる。ところが高知では、とりあえずやってみよう、やりながら考えるしかないって言われて、見切り発車(笑)。私も走りながら考えるほうが得意なタイプなので、人の心が動いたあとはゴールに向かって走るだけ。高知の方々にパワーをいただきました。先に明るいゴールを決めて、道中何があるか分からなくてもやってみようや! そういうエネルギーは、今世界に必要だと思っています」

information
おびさんロード商店街振興組合
高知市帯屋町2丁目1番地3号

人としての原点に立ち返らせてくれる

2014年に高知県に拠点を移し、今年で8年目。改めて、東京との生活の違い、暮らし方について聞いた。「高知県で暮らしていると、〝生きる〟という根本的な不安をあまり感じません。47都道府県の経済指数で見たら低いんですが、重要なのはそこではなくて。山に入ったら食べるものが採れて、川に竿を垂らせば魚が釣れる。近所の人が野菜をお裾分けしてくれたりもする。生命の維持という部分での安心感がすごくあるんです。そういうベースがあるからきっと〝なんとかなる〟って力がわくし、失敗しても立ち上がれるのかもしれません。」

これからの人生、高知県での永住は意識しているのだろうか。「〝命の運ぶままに〟を大切に、運命に委ねています(笑)。時代もそうだし、自分の人生もそうだし、どういう風が吹いて、どんなところにどんな空気が流れているのかに敏感でいたい。どこに行ってもどこで暮らしていても、今どういう状況にあるかというのを、見失わずにいたいと思っています。そうすれば、その時々に来た流れをありがたく受け止めることができるし、その波に乗るとスムーズに運ばれるような気がします。その視点を思い出させてくれるのが、高知県での暮らしなのかもしれません」

エンターテインメントとは〝心が動くこと〟

安藤さんにとってのエンターテインメント、それは映画。自分が撮る作品においては必ず必要なものだと言う。

「何かを届けたくて描いているならば、どんな作品でも自分にとってエンターテインメント性というのは必須。日常のなんでもないことに目を向けられる感性を持ち合わせていたら、人生丸ごとエンターテインメントで、映画のようだとも思うんです」

INFORMATION
安藤 桃子(映画監督)
安藤 桃子(映画監督)
あんどう・ももこ|1982年、東京都生まれ。ロンドン大学芸術学部を卒業後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010年に『カケラ』で監督、脚本デビュー。2011年には長編小説『0.5ミリ』(幻冬舎)を上梓し、同作を映画化。多くの賞を受賞した。ミニシアター「キネマM」の代表やラジオ番組「ひらけチャクラ!」(FM高知) のパーソナリティも務めるほか、子どもたちが笑顔の未来を描く異業種チーム「わっしょい!」では、農・食・教育・芸術などの体験を通し、全ての命に優しい活動にも愛を注いでいる。また、有機農産物の作り手が集う出 店イベント「高知オーガニックフェスタ」の実行委員長に就任。エッセイ集『ぜんぶ 愛。』(集英社インターナショナル)が大好評発売中。
INFORMATION
エッセイ集『ぜんぶ 愛。』
エッセイ集『ぜんぶ 愛。』
映画のロケ地“高知”に3秒で移住を決断。豊かな自然、心優しき人々、ちょっと“変”な家族の愛。「七光り八起き」の半生を、ユーモラスに綴ったエッセイ集。 発行/集英社インターナショナル
  • Photo/Kisshomaru Shimamura
  • Text&edit/Shoko Matsumoto
  • Styling/nahokotakahashi
  • FLOWER DYES" RAPEL JACKET ¥71,500 / Sasquatchfabrix.
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  • Cording Embroidered Flight Jacket - khaki ¥99,000 / Mame Kurogouchi
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