
自宅の一部を器屋に。暮らしながら、働きながら、“小さく商う”家。
住宅街の一角に、小さな器屋を開いた圭一さん。好きが高じたことが発端、そしてまた、理想の物件と出合ったことも。なにも意気込み人生を賭けたわけではなく、暮らしながらその一部を商いとつなげ、住まいをときどき街に開け放つ、そのくらい風通しよく、気負いない。そんな人生のひと幕にお邪魔した。

- 大畑圭一(「ALT NEU」「(a dit)」代表/「whyte」副店長)
- おおはた・けいいち|1996年生まれ。焼き物の産地・常滑の近くで生まれ育ち、幼少の頃から陶芸文化や陶器に囲まれて育つ。2021年から、原宿のサロン「whyte」で美容師として働く。コロナの時期には料理や器をより楽しむようになり、妻のソヨンさんとともに、器を扱うオンラインショップをスタート。2025年3月、東京・北千住に実店舗「ALT NEU」を構えた。
- @whyte_keiichi
リスクを抑え、軽やかに踏み切った。
そこは北千住の住宅街。その一角に、住まいと店舗をいっしょくたにしたオールドスタイルの商店が、オープンした。取り扱うのは器。代表の圭一さんは、美容師として勤めるかたわら、この器屋「ALT NEU」を妻のソヨンさんとともに営む。
実店舗をもつのはかねてからの念願だったが、これまでは趣味の延長でオンラインショップを運営していた。新しい展開に向けて動き出したきっかけは、この物件との出合いだった。
「戸建ての賃貸ですが、なにをしてもOK。原状回復もしなくていいという物件でした」
1階部分には器屋「ALT NEU」とキッチン、2階には事務所・倉庫機能とリビング・寝室を併せ持たせ、コンパクトな空間に住まいと商いの機能をパズルのように組み込んで職住一体化。内装は、できるだけ自分たちでDIYしたり、友人の力を借りたりで済ませた。
「美容師の仕事を辞めて器屋だけで生活するわけにもいかなかったので、できる範囲で。最初にガツンと投資しちゃうと全力で走りはじめないといけないですし、様子を見ながらスタートしようと思ったんです」
かくして、リスクを抑え、新しいチャレンジに軽やかに踏み切った。
取り揃えるのは、国内の窯元や作家の器、そして韓国やヨーロッパなどの海外で買い付けたヴィンテージなど。器以外に、民藝品や古道具など、小さな空間に感性豊かな品々が集う。
圭一さんもソヨンさんも、原料の土の風合いが生きた器がなかでも好みで、また仕入れる窯元や作家の器は、夫妻が実際に使って愛着の湧いたものがほとんどだという。住まいの一部だからこそ、ふたりの暮らしの道具をそのまま並べてもしっくりくるのかもしれない。
そして実際に使ったことがあるからこそ、「どんな料理をのせるか」までをじっくり想像して仕入れることが多く、それでもいっぽう、お客さんそれぞれの思いもよらない発想や想像に立ち会うのも楽しいという。
ときどき模様替えして、愛着を取り戻す。
ちなみに、妻のソヨンさんはインテリアデザインが本業。店舗をつくる際も、3Dモデリングなどを活用するなど、その知見を存分に発揮したとか。
「ベースが古い日本家屋なので、内装を決めるときは“古道具屋”みたいにならないよう注意しました。床の色などは特に想像しにくいので、3Dモデリングなどでしっかりイメージできたのはよかったですね」
階段を上がって2階へ。そこは春のみずみずしい陽光が差し込むコージーな空間だ。部屋は3つに区切られていて、そのうち2部屋は倉庫と事務所として使っている。
「商品や備品がとにかく場所を取るので、収納にはできるだけ背の高い棚を使って天井近くまでデッドスペースが生まれないように。古い家屋ならではの、奥行きがたっぷりある押入れも便利です」
そして、もっとも広い1室にはベッドとソファがしつられていて、生活の色がにじむ。
これまでの住まいでは、ふたりは模様替えを頻繁におこなってきたという。棚の移動程度のときもあれば、寝室とリビングを入れ替える大掛かりなものまで。
「同じ場所に長く住むと、どうしても飽きてきちゃいますよね。でも模様替えをすると、『やっぱりこの部屋可愛いぞ!』って、もう一度好きになれるんです」
模様替えで愛着を取り戻し、自分の住まいに「NICE!」なまなざしを向ける。プライベートに割けるスペースが限られた今の住まいならなおのこと、それが長く住まうためのカギになりそうだ。
大切なモノでもひとに譲る、『NICE!』 な習慣。
家のナカの模様替えはさることながら、聞けば、家の“ソト”へ旅立っていく家具やインテリアも多いとか。「友達にあげちゃったりとか」と、あっけらかんと話すが、お金を払って自分たちが手に入れたのに、どうして?と率直な疑問がもたげる。
「もちろんモノは大切に長く使います。でも、“長く使う”っていうのは、自分たちだけで完結しなくてもいい。それを本当に欲しいひとがいるなら、譲って、その相手に大事に使ってもらう。それでもいいと思うんです」
なんて軽やか。自分たちの手元から離れたあとまで、その家具やインテリアの“人生”を愛せるとは。そのカラリとした執着心のなさは、自分たちが気に入ったモノを仕入れて販売する仕事柄だろうか。単純にそう片付けることもできなそうだ。
「そうやって、ひとからいただいたモノが暮らしのなかにあると、そのひとのことをふと思い出す瞬間がありますよね。実際、僕たちから譲り受けたモノがきっかけで思い出して、連絡してくれる友人もいたりして。そうした縁が生まれて、広がっていく気がします」
その執着のなさはソヨンさんも同様だというが、「このラクダ以外は何でも」と、以前暮らしていた家の向かいにあった古道具屋で見つけたという、オニキス製のラクダの置物は特別。高価でも有名でもないけれど、自分たちだからこそ価値を感じる。そういうモノは手放せないという。
美・食・住がつながる『NICE LIFE』を夢見て。
暮らしと仕事がないまぜな住まいゆえに難しいのは“切り替え”だ。タスクに追われていると、うっかり“ながら”で話してしまったり、テンションが噛み合わないこともしばしば。だからふたりは、1日10分のコーヒータイムを大切にする。好きな器に注いだコーヒーをまじえれば、自然と目線が合わせられたり、ちょっと先のことを考えたりもできる。
「お店がいい感じにまわってきたら、2階もお店にして、自分たちは別の場所に引っ越そうかと考えてもいるんです」と、圭一さんは将来を見据えて言う。そして、「これからも自分たちらしく、美・食・住をつなげていけたら」とも。
外見を整える美容師としての仕事と、食に関わる器のセレクトショップ、そして今後は、ソヨンさんを中心にしたインテリアデザインの仕事も増やしていきたいのだという。理想の「NICE LIFE」に向け必要なパズルのピースを、いま着々と、ふたりで集めているところだ。
- Photo/Sana Kondo
- Text/Masahiro Kosaka(CORNELL)
![[雑誌] 別冊LIFE LABEL magazine](https://llcsv-prd.s3.amazonaws.com/uploads/brand_magazine_content/ib_image/20260/ce7ee2b1-c333-4bcd-b3fc-bffa99fc29a1.jpg)
- [雑誌] 別冊LIFE LABEL magazine
- テーマは「LIFE LABEL」が考える“NICE LIFE”。 LIFE LABELの家を舞台にしたNICE LIFE。あの人の、あの店のNICE LIFE。 思わず「それ、NICEだね!」と言いたくなるような暮らしの一コマをビジュアルやインタビューでお届け。 あなたにとっての“NICE LIFE”を送るヒントをここで見つけてみてほしい。
- 詳しく見る
POPULAR CONTENTS 人気記事
-
2025.08.12
FREAK’S HOUSEから広がる、ナイチンゲールダンスのNICE LIFE!
-
2023.12.11
古民家をセルフリノべ。未完成を楽しむ住処。
-
2025.06.24
Pacific HOUSE(パシフィックハウス)でどんなふうに暮らしたい? アンケートに答えてオリジナルグッズをもらおう!
-
2025.07.17
いつでも自分らしくいられる暮らしを。Pacific HOUSE(パシフィックハウス)。
-
2025.05.30
“好き”のピースをコーディネートする、ファッション感覚の家づくり。
-
2023.07.17
その見晴らしが暮らしを豊かにする。大きな窓から夕暮れを望む家。
ライフレーベル「私たちに
ついて もっと 知りたい…?そんなこと
言わずに 聞いてください…あきらめて
ハイって 答えましょうよ」