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空想科学研究所 ―有名映画のおうちシーンを考察してみた―
CULTURE 2022.08.25

空想科学研究所 ―有名映画のおうちシーンを考察してみた―

おうちで映画を観ていて、「これってありえるの?」とふと疑問に思ったことはないだろうか。たとえば、身近な家にまつわるシーンでも映画ならではの奇想天外なシーンがたくさん登場しますが、ちょっと立ち止まってリアルな視点で観てみるのもこれまた楽しい。ということで、映画をはじめ、アニメやマンガを科学的に検証する「空想科学研究所」の柳田理科雄さんに、人気の名作3本の気にアノ場面を真面目に解説してもらいました!

INFORMATION
柳田 理科雄(空想科学研究所)
柳田 理科雄(空想科学研究所)
やなぎだ・りかお|アニメや映画などのフィクション作品の中で起きる事象を、科学的に考える空想科学研究所の主任研究員を務める。東京大学理科Ⅰ類中退。さまざまな学習塾の講師を経たのち、『空想科学読本』を執筆。60万部のベストセラーとなる。1999年に塾講師から作家へ転身し、中学時代からの友人で編集者の近藤隆史とともに、空想科学研究所を設立。書籍の執筆を続ける一方で、各地での講演、メディアへの出演なども精力的に行っている。明治大学理工学部の兼任講師。ちなみに「理科雄」は本名。

ちょっと待った! このシーン、実際ありえる?

日夜、映画やアニメ、漫画で展開される驚くような出来事を科学的に解明している「空想科学研究所」。その主任研究員を務める柳田理科雄さんに、有名映画に登場する家や建物にまつわるシーンの裏側を、リアルな考察で紐解いてもらいました。取り上げるのは『ホームアローン2』『スパイダーマン』『ゴーストバスターズ』の名作3本!何気なく観ていたシーンの中に、想像もしない意外な事実が……!

ホームアローン2|悪事をはたらく泥棒に、容赦ない電撃を!

主人公の少年ケビン(マコーレー・カルキンかわいすぎ)が、クリスマスの夜に自宅にやってきた泥棒を持ち前の機転で退治するジュブナイル的冒険活劇の映画『ホームアローン』。続く『ホームアローン2』では、多くの少年少女を魅了したやんちゃな自宅警備員=ケビンが、ニューヨークに飛び出し(というか、飛行機の乗り間違い)、ふたたびドジな泥棒コンビ・ハリーとマーヴに遭遇&対決することに!今回取り上げるシーンは『2』の中で、ハリーとマーヴの悪巧みを知ったケビンが、2人を懲らしめる一場面。ケビンの仕掛けにハマり、ペンキを浴びたマーヴが汚れを落とそうと近くのシンクの蛇口を捻った瞬間、猛烈に感電!横に隠れていたケビンが装置を使って、蛇口に電気を流していたのだ。いったいどれくらいのダメージがあるのだろう。

泥棒が受けたダメージは、なんと家庭用電力の16倍!

柳田 まず、ケビンが触っていた機械ですが、マーヴが感電しているときにダイヤルを回して威力を上げているような描写があるので、電圧を操作する変圧器だと思います。変圧器は大小さまざまで、大きいものでいえば変電所、小さいものでいえば海外旅行で使う変圧器とかですね。世界の電圧は、日本が100V、アメリカが115V、中国と韓国が220V、ヨーロッパが220〜240Vです。

マーヴがダメージを受けるときに痙攣していましたね。筋肉が痙攣する電圧が、手が乾燥している場合で100V。おそらくアメリカの家庭用電源の115Vぐらいにセットしてあったんじゃないでしょうか。そこからさらに、ケビンがググッとダイヤルを回しています。画面を虫眼鏡で観察しましたが数字までは見えず……。ただ、角度的に4倍ぐらいには目盛りを上げていたのではないかと推測します。元が115Vですから、最終的に460Vにアップ。「マーヴは一気に4倍ものダメージを受けたんだ!」って思いますが、実は4倍では済まないんです。電圧が4倍になると電流も4倍になります。ダメージは電圧(V)×電流(A)=電力(W)の値となるので、16倍。劇中で描かれていたように骸骨は見えないかもしれないけど(笑)、とんでもないダメージをお見舞いしていますね……。

電気の流れやすさは個人差がありますが、体が濡れていると、通常の4倍ぐらい流れると言われています。このときマーヴは水よりも電気を通しにくいペンキを被っていたので、少しはダメージが和らいだのかも…。

スパイダーマン|移動も戦闘もビルの壁に貼り付いて器用にこなす!

ひょんなことから遺伝子操作されたクモに噛まれ、そんな特殊能力を得た高校生、ピーター・パーカーが主人公のアクション映画の『スパイダーマン』。スパイダーマンはその名の通り、あらゆる壁をすいすい登り、どこにでもくっつく糸を手から放って軽やかに移動するクモ男。ときに、ビルの壁に張り付き、ニューヨークの街で起こる犯罪に目を凝らし、ときに器用かつ大胆に建物の間を移動しながら、さまざまな強敵と戦いを繰り広げる! 世の成人男性がビルの建物を登るには、どうすればよいのか……。

手のひらに600本のトゲがあればビルも登れる!

柳田 スパイダーマンの力を手に入れたピーターが壁を上るときに、指からトゲがにゅっと出てくるシーンがありますよね。あれはおそらく、小さなトゲに体重を分散させながら壁を登っているから。たとえばピーターの体重が72kgだとします。成人男性の手のひらの面積は、おおよそ150㎠なので、5mm間隔でトゲが生えているとすると、1㎠あたり4本のトゲがあり、合計600本になります。すると1本あたり120gを支えることで、片手を交互に出しながら壁を登っていけることになるんです。120gというと、500mlのペットボトルの4分の1ぐらいの重さ。

ただ、手だけではなく足にも同様の構造が必要で、身体的に鍛錬を積んだ人でないと自力で登るのは無理だと思います。スパイダーマンは運動能力も飛躍的に高まっている前提なので、十分納得できる現象ですね。

高層ビルに貼り付いているとき、怖いのは横風ですよね。風速10m/sの風が吹く場合を考えてみましょう。これはもう傘を持っていたら歩けないぐらいの強い風ですけど、風速10m/sで風圧は3kg程度。72kgの体に3kgの力がかかるくらいなので、考察上は耐えられてしまうんです。もしそこで体重と同じ風圧を受けたら、貼り付いていられず落ちてしまうと仮定します。72kgの風圧がかかる風は、風速68m/sとなり、人が転がっていくくらいの風の強さです(笑)。まあ、こんな風が吹く日は、もう悪人も家にいると思いますけど(笑)。

ゴーストバスターズ|プロトンパックから放つ陽子ビームで次々とゴーストを退治!

超常現象を研究する3人の博士、ピーター、レイモンド、イゴンは、ニューヨークで増加する幽霊を退治するために「ゴーストバスターズ」を結成!ゴーストたちを消滅させる装置であるプロトンパックとともに、3人は次々と心霊現象を解決していく。そんななか、さまざまな騒動を起こしたゴーストたちの出現の根源である霊界の破壊神ゴーザが出現し、ゴーストバスターズにおそいかかる。とてつもない強敵にも効くビームを放つプロトンパックっていったい何なの!?

プロトンパック1個で1万6,666世帯の電気をまかなえちゃう!?

柳田 映画の中のセリフでも出てくるのですが、プロトンパックからは陽子ビームが発射されています。プロトンはまさに陽子という意味です。

陽子を発射する装置はこういう構造です。電磁石で挟み、磁場をかけて円形にグルグル回しながら、加速器を通してちょっとずつスピードを上げます。その中で電子を剥ぎ取ります。よく見ると、プロトンパックの下に丸い部分がありますよね。これがたぶん電磁石。つまり、直径30cmの電磁石の間で、陽子を加速させ、ビームにして発射していると思われます。

ビームの威力について、シリーズ1作目で博士が使ったときに、うっかり高級ホテルの壁に当てて火がついていました。そこから考えると、陽子ビームが当たった箇所は300℃ぐらいになっていたはず。これに必要な出力は5万kwです。

陽子はプロトンパックの加速器から発射しますが、「小型原子炉からエネルギーを与えている」と作中で言及されていました。ということは、この小型原子炉の出力が5万kW。一般家庭でだいたい3kWから5kWほどで生活していますので、1万世帯から1万6,666世帯が生活できるような小型原子炉を背中に背負っているということですね。

また、この小型原子炉の中にウランが燃料として使われていて、1kgだと仮定します。5万kWで、19日間連続の使用が可能です。ずっと出しっぱなしでも19日間。例えば、1日で合計1分間使うとしたら、75年使えます。1台でひとりのゴーストバスターがずっと使い続けられる計算です。これを作ったイゴン博士は、本当に天才です!

突飛な内容の映画も科学の力で紐解いた考察を知ってから作品を観返すことであのシーンも、より楽しんで鑑賞できる。せっかく家でまったり映画を観るなら、「実際にわが家でこの現象が起こったら…?」なんて考察してみるのも楽しそう!

  • Illust/Sajiro
  • Text/Hisamoto Chikaraishi(S/T/D/Y)
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