ビッケブランカ|家具はコピーできないもの。一点に宿る価値を追求した“やばい椅子”。
ピアノを使ったポップスからエレクトロミュージックまで多彩なサウンドに、磨き抜かれた歌詞を乗せ、美しく力強い歌声とともに歌い上げるシンガーソングライター、ビッケブランカ。自宅で楽曲制作を行っている彼だが、コロナ期間中は反動でアウトドアセットを買い、箱根の旅館などで音楽制作をしていたという。そんな実験的な時期を経て、現在は自宅環境をアップデート。再び家ブームが来ているという彼に、家のこだわりについて話を聞いた。
- ビッケブランカ(シンガーソングライター)
- 2018年、アルバム『wizard』の収録曲「まっしろ」がドラマ挿入歌として大きな話題に。翌年には「Ca Va?」が『Spotify』のTV CM曲になり、同曲収録の3rdアルバム『Devil』は、iTunes J-POP チャートで1位。海外においても『ブラッククローバー』シリーズで担当したオープニング曲がロングヒットし、音楽ストリーミングサービスにて全楽曲総再生回数は4億回を超えている。 2022年はメジャーデビュー5周年記念ベストアルバム『BEST ALBUM SUPERVILLAIN』をリリースし、自身最大規模となる全国ツアー THE TOUR『Vicke Blanka』も開催した。 2023年1月25日、Blu-ray&DVD『Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -軌-』をリリース。5月からは全国8カ所を巡る「Vicke Blanka LIVE HOUSE TOUR 2023」の開催も決定している。その他、楽曲提供、ラジオDJ、広告モデル、eSports ストリーマーなど様々な分野に活躍の場を広げている。2023年3月29日に新曲「革命」のDigital Releaseを予定。
- Instagram - @vickeblanka
こだわりを詰め込んだ居心地のよいリビング
僕の家は2LDKで、スタジオ、寝室、リビングで部屋を分けていたんですけど、スタジオにいることがほとんどだったので、つい先日スタジオを解体して22畳ぐらいあるリビングと合体させたんです。というのも、スタジオには窓がなくて時間感覚もわからないし、気持ちが滅入ってきたんですよね。今は広い窓に向けてスタジオがあるので、そこで曲を作ったり、ゲームをしたり、開放感がある中で過ごせています。僕は集中するためには居心地がいいことが大事だと思っていて。一番居心地がよく、こだわりが詰まったリビングで仕事をしたいと思って合体させたんですけど、大正解でした。
リビングには、ソファ、テーブル、4脚の椅子、ランプ、絨毯、テレビ、テレビ台、植物とダイニングテーブルが置いてあります。引っ越しをしたタイミングで、一生使うものを買おうって考え方に切り替えたんですよ。アクタスで作ってもらった3m×3mの絨毯を敷いて、トム・ディクソンっていう僕が一番好きなインテリアメーカーの真っ黒いテーブルと、リーン・ロゼのソファ、トム・ディクソンの象徴であるメルトっていうランプが1個たれています。実はそのランプが主役なんです。真ん中にランプがたれていて、その真下にテーブルがあって、それをまた3mが囲っている。テレビは壁につけて配線もしています。ソファの真ん中に座って、真上にランプがあってほしいみたいな(笑)。ちょっとでもズレてると「もう!」ってなるくらいこだわっていますね。
僕は個性的である家具が好きなんですけど、個性的でしょ?って主張していないものが好きで。トム・ディクソンのテーブルとか特にそうなんですけど、ガラスで真っ黒なんですよ。丸い土台があって、完全に正方形のテーブルがある。そこだけ金色の素材になっていて、コントラストが個性的。本質的に突き詰めたら個性的になりましたみたい家具が好きですね。
いま、また家ブームが来ています。スタジオが鬱々としていたから外へ出て楽曲制作って感じだったんですけど、スタジオを動かしたから快適で。外で曲を作るクリエイティビティと同じくらいのものが発揮できる場所が家になって、だいぶ最強だと思って家で過ごしていますね。
弾き語りを想定して生まれたオリジナル家具のアイデア
そんなビッケとLIFE LABELの出会いは、同レーベル主宰・林哲平のラジオ番組「What’s New FUN?」に出演したときのこと。意気投合した2人は一緒に家具を作りたいという話からアイデアを出し合い、ご飯を食べながらブラッシュアップ、現実化へ向けてスピーディに進めていった。作った家具は、ビッケブランカ史上最大動員数の全国ツアー「Vicke Blanka」のファイナル公演である10月30日の東京ガーデンシアターで使用されることとなった。
「どんな家具を作りたいか話したんですけど、本当にフラッシュアイディアが実現していった感じがあって。ライブで使うために作り出したんですけどステージから花道が出ていて、会場の中央にあるデベソのステージに、ピアノと作った椅子を置いて弾き語りをしようと思っています。椅子の光量があれば、上からのピンスポットのライトはいらないんじゃないかと思っていて。広いアリーナの真ん中に自発光しているものがあるってすごいと思うから、多少暗くてもいいんじゃないかと思っています」
今回は5周年を祝うツアーなので、リリース順に曲やって歴史を追っているんです。これまでの僕の歴史を悪魔との会話のSEでストーリー仕立てにするっていう新しいことにチャレンジしていて。手応えも感じています。一時期はコロナ禍の煽りを受けたんですけど、今回のツアーで集客が全会場2倍ぐらいになったんですよね。その勢いの中、最後アリーナでこういう演出もできてワクワクします。ツアーで「魔法のアト」という新しいバラードをまだ披露していないので、今回作った椅子に座って弾き語りでやろうと思っています。
キメラ的感覚から誕生した椅子とライトの融合
今回の取材後、ツアーファイナルが行われ、見事大成功を収めたビッケブランカ。お披露目されたビッケブランカプロデュースによるピアノ椅子は、モリカワリョウタ、オザワテツヤ、タカハシリョウヘイの工作好き3人によって活動を続ける3D造形グループGELCHOPが制作を行ったこの世に1つしかないオリジナル家具となった。なぜ今回、ビッケは椅子を作ろうと思ったのか? そして、実際に完成した椅子を見たばかりのビッケの反応とは?
ブルーノ・タウトっていう建築家の作った椅子を巡った『ノースライト』というドラマがあるんです。幸せそうな家族が理想の家を建てるんですけど、家が出来上がった途端、タウトの椅子だけ置いて失踪しするんです。1個の椅子を巡って話が進むんですけど、家具が主役になっちゃうんだ!と思って。またその椅子がいいんですよ。無駄がない。音楽って平気でコピーされるものというか、マスターCDがあって、それをコピーしたものが売られていく。家具ってコピーできないものだから、そこに価値を感じるというか。CDとか音源って送ってとか貸してって平気で言うけど、この家具めっちゃいいじゃん!貸して!ってならないじゃないですか? 音楽も椅子も同じ美術品なんですけど、一点に宿る価値に魅力を感じたんですよね。それで僕も椅子を作りたいと思ったんです。
実際に、僕の好きなものを大画面で共有して、みんなで話し合って、色味とかも決めていったあとでGELCHOPさんと打ち合わせをしました。僕は2個の要素が混ざっているものが好きなんです。僕の音楽にも感じるんですけど、キメラ的感覚が好き。それで、椅子と何かを合体させたものを作りたいってところに行き着いて、ステージでの使い方の出口も考え、ライトをつけたらいいんじゃないかと思ったんです。椅子とライトを置くのではなく1個になっているのがおもしろくない?っていうので出来上がったのが今回の椅子ですね。
完成した椅子はすごいですね。無駄がなくて。あれでバランスをとるってかなりすごいことだと思うんです。全部計算されている。細かい木材の椅子とライトの近辺が金属になっているんですけど、そこの接着点とか木材と金属のちょっとした段差すらない感じの異常性に興奮しました。座る部分と背の木がまっすぐ縦に切り落とされて、完璧に平行になっているんですよ。そこにライトが合体しているんですけど、完全に有機的に合体している。無駄がない。左足のライトも、僕は右足でペダルを踏んでいるから、すごくよく見えるんですよ。座ってみても、バランス感があって、上からライトが照らされている安心感もある。いい椅子に座って、いい演奏をしようっていう気持ちになれます。
自分の手元に置いておきたい気持ちは正直ありますけど、羽ばたいてほしいと思う気持ちの方が強いですね。本当に1点しかないですし、同じものは二度作れないこの世に1つしかない椅子になりました。
実際に使用された様子。2022年10月30日(日)、ファイナルツアー「RAINBOW ROAD -軌-」にてファンが見守る中お披露目された。
- Photo/Naoki Usuda
- Text/Hiroo Nishizawa
家を暮らしをもっと楽しんで欲しいから「HOUSE IS ENTERTAIMENT」をスローガンに、様々なアーティストと特別な家具を作るプロジェクト『Who's Props』。
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