葉山への移住が変えた、“何もしない”を楽しむ暮らし。
東京から神奈川県の葉山へと移住し、子育て生活を送っている奥谷さん一家。海にも山にも囲まれた葉山に移住した一方、夫妻は今も都内の企業に勤務。都心と郊外を行き来するというと、どこか忙しくも聞こえるが、家族の暮らしは穏やかにして豊か。その理由を探りに伺った。
- 奥谷 将之さん/りんさん
- おくたに・まさゆき/りん|夫の将之さん、妻のりんさん共に東京都内の企業に勤めている。勤務先はそのままに2019年秋に都内から葉山へ移住。マイホームを建て、移住から約4カ月後の2020年1月に長男・梁吾くんが誕生。
- Instagram - @m.okutani
葉山への移住と、子育てを見据えた“天然素材”の家づくり。
奥谷さんが暮らすのは、神奈川県の葉山町。葉山には南北4kmにわたる美しい海岸線が広がり、奥谷さんの住まいもまた、ビーチから徒歩10分ほどの立地だ。以前は東京都内のマンションに暮らし、葉山に引っ越してきたのは2019年のこと。自然とほど近い住宅地にマイホームを建て、夫の将之さん、妻のりんさん、長男の梁吾くんの3人暮らしを送っている。
一家のマイホームは、吹き抜けの構造も部屋の間取りも開放的な1LDK。ベッドルームを除くすべての空間が緩やかにつながり、窓から降り注ぐ日光を反射するような白壁が心地いい。そして、白壁との柔和なコントラストを生み出しているのが、天然木を多用したウッド素材。聞けば、フローリングに用いているのはミモザの無垢材だという。
「この家が完成したのは、息子が生まれる4カ月くらい前。子育てのことも想定しながらの家づくりでした。生まれてくる子どもの健康のためにも、住まいにはできる限り、天然素材を使いたい。フローリングを無垢材にしたのも、そうした思いからです。それに白の壁は漆喰仕上げ、建具の塗装には柿渋を使っています」
ビーチも、トレッキングスポットさえもすぐそこに。
奥谷さん夫妻がマイホームのロケーションに葉山という土地を選んだのも、子育てと無関係ではない。夫妻は梁吾くんが生まれる以前も今も東京に通勤しているため、利便性を第一に都内に戸建てを持つ選択肢もあったという。しかし、りんさんは「それでもやっぱり、自然豊かな環境で育児をしたくて」と振り返る。
「自然が身近にある環境を強く望んだのは、夫よりも私のほうでした。というのも、私自身が小学6年生から中学2年生までの3年間、沖縄のやんばる地方で生活していたんです。あまりにも自然が豊かすぎて圧倒されて。カルチャーショックだった反面、海の景色も山の景色も、今も脳裏に焼き付いています。そこまで雄大な自然とまではいかなくても、子どもにも自然と親しむ経験をしてほしいと思ったんです」
葉山は海に面しているだけでなく、山にも囲まれた立地。3歳になった梁吾くんは地域の保育園に通い、園のお散歩先は驚くことにトレッキングスポットとしても知られる仙元山だそう。そうした環境を味方に、梁吾くんはすくすくと成長。夫妻は「いつもは慎重派の息子が、近所の山に行くと性格が変わるんです(笑)。見るからにのびのび、自分から率先して山を登っていく様子にビックリさせられます」と口元をほころばせる。
「それに最初はちょっと不安だった通勤も、実際には全く苦にならなくて。葉山から都心までは電車で1時間ほど。それなりの距離ですが、始発駅から乗車できるので、絶対に座れます。通勤中に本を読んだり、グリーン車で仕事をしたり。時間を有効活用できている実感があるし、最近はリモートワークも増えていますしね」
遠出は不要。休日は穏やかに、マイホームでゆったり。
共働きの奥谷さん夫妻にとって、休日は家族が一緒に過ごせる大切な時間。お出掛けをするにも葉山エリア内を選ぶことが多く、家でゆっくり団らんのときを過ごすのが定番だそう。玩具遊びに熱中する梁吾くんの気配を感じながら、将之さんは部屋にあふれるグリーンの世話をしたり、りんさんは趣味のモダンカリグラフィーにふけったり。温かい時期には庭に面したウッドテラスにBBQ道具をセットし、ご近所さんと共に楽しむこともあるという。
「これも自然豊かな環境が影響しているのかな?葉山に住む人って、せかせかしていない。のんびり優しく、穏やかな人が多い気がします。ベビーカーで移動していても肩身の狭い思いをしたことがないし、ご近所づきあいをするにも自然体です」
新たな趣味をもたらした、立地と吹き抜けの開放感。
海にも山にも囲まれ、そこに暮らす人は穏やか。そんな環境にしたことで、将之さんには夢中になれることができたとか。その趣味とはずばり、水上スポーツのひとつであるSUP。ボードを海に浮かべ、パドルを漕ぎながら、ゆったりと水上散歩を楽しめる。ちなみに葉山の海は、湘南エリアのなかでも波が穏やか。SUPには絶好の環境だ。
「我が家のお散歩先は近所のビーチ。SUPを楽しんでいる人たちを見ていたら、自分もやりたくなってしまって。今ではマイボードを購入して、生活の一部になっています。でも、SUPボードって意外と大きくて、長さが3mくらいあるんです。家を建てた当時はボードの置き場所なんて想定していなかったから、吹き抜けのある家にして良かったなと思いますね(笑)」
そう。1階から2階まで貫かれた吹き抜けの空間が、マイボードの定位置。ボードの爽やかなブルーが住まいに多用されたウッドのブラウンにも、生き生きと枝葉を伸ばす観葉植物のグリーンにもよく映える。そして、部屋の随所にレイアウトされた植物にもまた、吹き抜けこその開放感が影響している。
「植物に関しては前から好きだったんです。とは言え、マンションではあまり大きな品種は育てられない。それが今では吹き抜けの天井高のおかげで、背の高いグリーンも躊躇なく購入できます。それに僕の理想として、屋内と屋外がつながるような家にしたくて。住まいに屋外の趣をプラスする意味でも、大きな品種を好んで育てています」
何もせずに過ごす休日だって、もったいなくない。
奥谷さん夫妻は「葉山に引っ越してから、“何もしない”ことを自然と楽しめるようになったよね」と口を揃える。都内に暮らしていた当時は休日を家で過ごすことを“もったいない”と感じ、映画を見に行ったり、展覧会に出掛けたり、ある種の義務感のように何かしらの予定を立てては外出していたという。
「でも、今は家でゆっくり過ごすことに何の罪悪感もないし、ちょっと外の空気を吸いたくなったら、ほんの10分歩いただけで海。住まいを取り巻く環境も含めて、自分の家が心地いいからですよね。最近はもっと自宅を充実させたくて、DIYにもちょくちょく挑戦しています」
りんさんの希望を受け、将之さんはLDKの壁の一部にパントリー兼食器収納のためのラックを自作。今後は梁吾くんの玩具の収納スペースを拡張すべく、また新たに棚をDIYする予定だそう。
家族ひとりひとりの暮らしやすさと子どもの成長に合わせるように、部屋の表情を少しずつアップデート。そうして一家の住まいは心地よさを増し、より“何もしない”ことが楽しいマイホームへと進化していく。
- Photo/Kiharu Karube
- Text/Kyoko Oya
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