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郷古隆洋|モノに囲まれた収集家の子育て。世界の骨董と共にある暮らし。
KIDS & PET 2023.01.20

郷古隆洋|モノに囲まれた収集家の子育て。世界の骨董と共にある暮らし。

収集家として知られる郷古隆洋さんは、妻と子ども2人との4人暮らし。住まいにはこれまでに発掘してきた骨董や工芸品があふれ、種々雑多なアイテムたちが暮らしに溶け込んでいる。そこで収集品がインテリアとして調和するお宅にお邪魔してみると、“モノに囲まれた暮らし”がもたらす豊かさが見えてきました。

INFORMATION
郷古 隆洋(Swimsuit Department)
郷古 隆洋(Swimsuit Department)
ごうこ・たかひろ|「ユナイテッドアローズ」「ランドスケーププロダクツ」を経て、2010年に各国から収集したインテリア雑貨を卸販売する「Swimsuit Department」を設立。直営ショップの「BATHHOUSE」も運営。その傍ら、店舗のインテリアコーディネートなども手掛け、現在は東京と福岡の二拠点生活を送る。

見つけ出した収集品には、いつだって囲まれていたい。

郷古さんは無類の収集家。ジャンルも地域もボーダレスに収集したヴィンテージアイテムの卸を行う「Swimsuit Department」の代表を務め、「BATHHOUSE」と名の付いたショップも運営している。ショップに並ぶのはもちろん、郷古さん自らが現地に足を運び、目利きしたヴィンテージの数々。東京・渋谷、愛知・名古屋、福岡・太宰府の3ヶ所にショップを構え、オーナーである郷古さんもまた、東京と太宰府の二拠点生活を送っている。

「妻の地元が太宰府なんです。以前から東京と福岡を行き来するような生活を送っていましたが、本格的に二拠点生活を始めたのは、子どもが生まれてからですね。太宰府って、本当にいい土地なんです。自宅の窓から山が見えるくらい自然が豊かだし、東京よりも時間の流れがゆったりしているし。子育てにはぴったりの環境です」

郷古さんが本格的な二拠点生活をスタートさせたのは、2017年のこと。妻の両親が暮らしていたマンションの一室を譲り受け、息子の光人くん、娘の凛ちゃんとの4人暮らし。さすがは収集家らしく、一家の住まいを彩るのもヴィンテージやアンティークの数々。壁にも、キャビネットの上にも多種多様な雑貨が並び、家具も多くが骨董品だ。

「今って、名前のあるモノは容易に検索できる時代ですよね。でも、名もなき骨董や工芸品から、何か心に引っ掛かるアイテムを見つけ出すのが楽しいんです。毎週のように骨董市や古道具屋さんを巡っていますが、見つけ出したモノには囲まれていたい。収集したアイテムはしまわず、常に目に着く場所に置いておきたいんです」

地域性が宿った人形やお面が、子どもの自由な感性を育む。

聞けば、家族と共に暮らす太宰府の家だけでなく、東京の住まいもモノだらけ。しかし、太宰府の暮らしでは収集したモノに囲まれると同時に、モノを使う頻度が増えたという。その代表例が、光人くんと凛ちゃんが楽しそうに遊ぶロッキングホース。つまりは玩具の木馬だ。

「実は、子どものために購入したわけじゃないんです。プロダクトの世界には“キッズデザイン”というジャンルがあって、そのひとつとして掘り出した骨董品です。いつか使えたらいいな、とは思っていましたが、これを見つけたのは子どもが生まれる前のこと。いわゆる木馬とは一線を画す、おもしろいデザインに惹かれてしまって」

それはロッキングホースに限らず、部屋のそこかしこに飾られた人形やお面も同じこと。郷古さんが掘り出した人形やお面には土地の文化や宗教が色濃く反映され、どれもが独特の面持ち。すると子どもは怖がりそうなものだが、光人くんと凛ちゃんにとっては立派な玩具だ。

「生まれたころから妙な顔をした人形やお面に囲まれているので、それが当たり前なんでしょうね。娘も息子も怖がることはありません(笑)。むしろ、地域性のある独特な骨董や工芸品は、子どもの感受性を広げてくれる存在。『怖い!』と拒絶するのではなく、何事にも興味を持つ姿勢を育めているような気がします」

一方、子どものために購入した玩具もグローバル。例えば、ボールがころころと転がっていく木製のスロープトイは、ドイツの玩具メーカー「ニック」のプロダクト。日本ではなかなかお目に掛かれない、赤ちゃんの背丈ほどもあるサイズ感に惹かれたという。つまり子どもたちは、物心ついたときからおのずと世界各国の趣向を凝らした玩具に触れながら育つ。

モノに囲まれた暮らしが教えてくれる“壊れたら直す”。

ジャンルも地域性もボーダレスに収集された品々に囲まれ、おのずと育っていく子どもの自由な感性。しかし、どうしてもつきまとうのがひとつの疑問だ。収集家の郷古さんにとって、部屋にあるすべてのコレクションが大切なはず。それを子どもに壊される心配はないのだろうか。

「同じことをいろいろな人に聞かれるんです(笑)。でも、心配ご無用。息子も娘も生まれたころからモノに囲まれた環境に暮らしているので、どれもが家族にとって必要なモノ、大事なモノということを自然と理解しているようです。人形やお面を怖がらないように、モノに囲まれていることが当たり前。収集品を壊されたことは一度もありません」

郷古さんは「それに僕としては、『壊されても別にいい』とも思っているんです」と続ける。どんなに大切に使っていても、いつか壊れるときが来るのがモノの定め。むしろ、せっかくの掘り出し物をしまっておくだけではもったいない。常に目に着く場所に置き、触れることに価値がある。

「どんなに希少な骨董品も、元々は使われるために作られたモノですよね。革製品に顕著なように、使い込まれたからこその、経年変化の美しさだってあります。だから僕はモノをしまわないし、壊れたときは直せばいい。日本の金継ぎのように、直すことで美しさを増すこともあります。モノに囲まれていてこそ、子どもたちに大事に長く使うことを学ばせられると思うんです」

多くのモノに囲まれ、モノを積極的に使う暮らしの豊かさ。

じっくり、丁寧に目利きした収集品は、どれもが大事。そして、大事な収集品に囲まれた生活は子どもの情操を育んでいく。収集家らしい考え方に唸らされるが、収集品から子どもの玩具へと昇格したロッキングホースと同様に、太宰府での暮らしを始めて以来、飾ることから使うことにシフトしたのが食器類だそうだ。

「“都会と田舎の違い”という言葉で片付けるのはもったいないくらい、太宰府は野菜がおいしいんです。農産物は地産地消が基本。新鮮な野菜を使ったおいしい料理だからこそ、もっとおいしく食べたくなります。そこで活躍してくれるのが、これまでに集めてきた食器。フレッシュな野菜の美しい色合いを見ていると、骨董のお皿に手が伸びます。この料理とこのお皿と合わせたら、最高の食卓になるだろうな、なんて、ついつい想像がふくらんで」

新鮮な野菜をふんだんに用いた料理は、子どもの成長にも不可欠。「とはいえ、やっぱり子どもは野菜が苦手(笑)」と話してくれた郷古さんだが、鮮やかな料理と美しい食器が彩る食卓は、子どもにとっても幸せであることは間違いない。

そうした郷古さんの暮らしの風景は、モノに囲まれた暮らしの豊かさを物語っている。

  • Photo/Hisanori Suzuki
  • Text/Kyoko Oya
LL MAGAZINE